裾野の拡大
こちらの記事を読みました。
発行人が自ら販売「独立出版者エキスポ」来年開催 書店でフェアも 滝沢文那 朝日新聞 25/9/19
中小出版社が集まって即売会を開くという話。開くことにした理由の部分。
実行委員会の北尾修一さん(百万年書房)によると、本の奥付にも記される「発行人」や「発行者」は、大手や中堅の出版社のでは編集幹部など複数人いる場合もあるが、大抵は社長だ。きっかけは文学フリマやZINEフェスの盛り上がり。北尾さん自身も一人で営む出版社「百万年書房」として参加してきたが、「本来は作家が自らの本を展示販売するイベントなのに、出版社が便乗することにだんだん違和感が強くなった」。そこで、各地の版元の出版責任者である「発行人」たちと意見交換し、イベントの開催を決めた。
当日は、一般向けの販売だけでなく、書店との商談にも応じる。従来の出版流通では小規模出版社の本は書店に届きにくく、新たな販路を開拓する狙いもある。
確かにと思うのと同時に、違うことを考えている自分がいます。
僕は昨今の出版の流れは、「山の形が変わった」ということではないかと思っています。
昔々の出版は、例えるならば南米のギアナ高地とか南アフリカのテーブルマウンテン。プロとアマチュアの間には、すごい壁があった。全国流通させる難易度が高かったからです。
そこにIT技術の発展で情報流通革命が起き、絶壁が崩れ始めて、富士山型になってきました。境目があいまいになってきたのです。アマチュアのまま活動を続けていくうちに、小規模な商業出版の部数ぐらいなら届く。そういう可能性が広がっています。
そのあいまいになった境目辺りに、この記事にあるイベントに参加している出版社が存在している。
なので、既存の即売会を「書き手の直売り」というイベントだと考えると、確かに上記のような違和感が生まれますが、需要のボリュームの視点からすると、混在しててもいいんじゃないかな。そんな感想が一つ。
ただ、こうしてイベントが立ち上がることはいいことだ、というのがもう一つの感想。
元々の紙の本の流通網は、漫画や週刊誌の売り上げが、その維持に大きく寄与していました。電子書籍にそれがシフトしていくと、今までの規模を維持できないのは当然です。
余暇時間もネットに奪われていますし、そこで流通網も弱くなれば、既存の出版社でデジタルシフトできていないところは苦しくなる。すると、とにかく売らなくてはと、ジャンルの絞り込みが起きたりするわけですけれども。
ただ出版全体で考えると、多様性は重要です。読者をより深みにはまらせ、客単価を上げるためには、よりその人にドンピシャの本がいる。沼にはまればはまるほど、好みには敏感になっていく。それをカバーするために多種多様な本が必要だからです。
今、創作系のイベントが盛況なのは、そういう需要が流れてきているからじゃないかな。
そうすると、イベントもただでかくなるだけではなく、それぞれ色々と個性があって、全体で広範囲をカバーできた方がいい。
その視点から見ると、中小出版社が集まったイベントという時点で、並ぶ本にどこか色の統一感がありそうで、いい企画なんじゃないかなと。
生態系が築かれて長く持続可能になる方が文化としてはいいはずなので、こちらのイベントもぜひぜひうまく回ってほしいなと思います。
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