商業出版の絞り込みと文学フリマの隆盛
この間の12/1に文学フリマ東京39がありまして。
そちらのことを書いた記事で「商業出版は、データを見ると文字物は苦戦しているんですけど、ここの様子はまったく違う。ここに何かヒントがあるような気がしました」と書きました。
するとやはり他にも気になった人はいたようで、それについてのポストを見かけました。その人は商業出版が絞り込まれてしまった結果ではないかという推論だったのですが、僕もそれはあるだろうなと思います。
ということで、ではそんな時代に書き手は何をするべきなのだろうと、ちょっと考えてみました。
まず現状をどう見ているかということなのですが。
多分、前述のようなことは多くの人が感じているのではないでしょうか。売れ線に絞り込んでしまった結果、商業出版の多様性が減少し、他のものを求めて文学フリマに来るという流れ。このようなイベントに来る人は、もうどっぷりとそのジャンルにはまり込んでいる人なので、流行りのものだけでは満足できない。もっと自分が好きなものをどんどん深掘りしたい。そういう読者の人たちです。
それに対して商業出版はうまく対応できていないのではないか、ということなのですが、ただ僕は批判として語る気はないのです。仕方ないんじゃないか。
まずネットの発達の問題があります。Amazonのようなネット書店が現れたこと。それから情報流通のインフラがネット上に移ったこと。この二つが、出版の多様性に影響を及ぼしています。
リアル書店の特徴の一つとしてよく書くのですが、なんとなく店内をフラフラとしているうちに、ついつい買う予定にない本を手に取ってしまうという、プレゼンテーションの効果の大きさがあります。それに対してネット書店は、目的のものを検索して買う一点買い。売れ方がピーキーになったと言われてきました。
さらにリアル書店はどんどんと減っています。この時点で多様な本が売れる下地が弱ってきてしまっています。
でもこの流れは止められない。リアル書店の売り上げの主体は雑誌や漫画でした。文字ものの書籍は、ビジネスとしてはそれに乗っかっていた形なのです。
しかし雑誌に書かれていた情報がネットに載るようになり、むしろそちらでみんなが情報収集をするようになった。漫画の方はうまくデジタルシフトができて、今や売上の半分以上が電子書籍になった。そうして売り上げの柱を失った書店が苦戦するのは当然のことですし、書棚に置かれていることが最大のプレゼンテーションだった他の書籍が巻き込まれるのも当然です。
しかも出版は薄利多売のビジネスです。それでも多様性を保っていたのは、委託販売の形になっていて取次が前払いするという金融機能があったからです。ただ、出版点数が増えすぎてしまい、これには調整が入りました。こうして多様性を維持するのは、どんどん苦しくなっています。
関連することは実体験でもありました。僕が実際に編集さんから言われたこと。全体的に本の売り上げが下がり始めて、社内で営業の発言力が大きくなり、数字の裏付けが重視されるようになった。そのため編集者的にはちょっと面白そうだから作ってみたいというような本が通らなくなっている。そんな嘆きでした。
ちなみに、この話をされたのは、僕が小説家デビューを果たしたころ。上記のような状態なので、売れる保証もない名もなき新人はチャンスがなかなかもらえないけどがんばって、という新人にとって辛い文脈でした。
こうなると、きちんと売れそうという手堅さと、それでも他の物とは違うという絶妙な個性を出さないといけない。僕は完全にドツボにはまり、何を書いたらいいんだろうとうまくいかないまま現在に至っています。つらい。
さて、そういう構造的な問題がある中、書店の苦境に対して政府が手助けをするような動きが見られますが、僕は反対です。構造的な需要の落ち込みがあるので、一度お金を突っ込むと、ずっと入れ続けなければいけない補助金ビジネスになってしまうからです。特にこの手の話をする時に、文化拠点を守れというような非常な曖昧な理由で行われているのがいただけない。なぜ他の場所に文化拠点が作れないと決めつけているのでしょうか。
そしてまさにその、他の場所にできる文化拠点の一つが、文学フリマなのだと思います。
売れ筋以外の多様性を維持する。当然ビジネスとして考えたら不利な戦いです。であれば、コストを極限まで下げた一人出版社や、作家の個人出版まで、グラデーションをつけてやればいい。そういう活動の中に、こうしたイベントがあって、盛り上げていければいいのではないかなと思うのです。
さて、そんな時代に書き手は何をするべきかと言うと。
まず自分の立ち位置をしっかり考えることではないかと思います。
売れたいんだったらそういうふうに書くべきだし、そういうところに行くべき。
好きなものを突き詰めるのなら、純度を高めて、量より質を考える。
特に、お客さんとどうつながるかが、難しいところですねえ。裾野が広がると、その分埋もれやすくなる。しかも、好きなものを追及すると、お客さんの人口密度が薄くなるわけで。
ここはいまだ課題。がんばろう。
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