欺瞞の化石賞
カタールで開催されています国連気候変動会議、COP28。そこには多くの環境NGOも集まっています。そちらで恒例の化石賞を日本が受賞しました。こちら。
日本に「化石賞」 “気候変動対策に消極的” 国際NGOが発表
気候変動対策を話し合う国連の会議「COP28」で、国際的な環境NGOは、日本が石炭火力発電所などを延命させ、再生可能エネルギーへの移行を遅らせているとして、気候変動対策に消極的だと判断した国に贈る「化石賞」に選んだと発表しました。
「化石賞」は、世界各国の環境NGOが作るグループ「気候行動ネットワーク」が、COPの期間中、気候変動対策に消極的だと判断した国を毎日選び、皮肉を込めて贈っています。
3日、COP28での最初の発表を行い、日本、ニュージーランド、そしてアメリカを化石賞に選んだとしています。
このうち日本については、火力発電所の化石燃料の一部を、二酸化炭素を排出しないアンモニアなどに転換することで排出削減を進めようという日本の取り組みに触れ、「国内だけでなくアジア全体で石炭火力などを延命させ、再生可能エネルギーへの移行を遅らせている」などと批判しています。
化石賞のトロフィーを受け取るパフォーマンスをした日本の環境NGOのメンバーの長田大輝さんは「気候変動の影響が世界中で出ていて、一刻も早く脱化石燃料をしないといけない中、日本はそれができていない。脱化石燃料に向けて具体的な行動をしないといけない」と話していました。
(後略)
NHK NEWS WEB 23/12/4
さて僕はSDGsに関して、ファッションのようになってしまったので賛同できなくなってしまった、ということを最近こちらのブログで書いています。この化石賞は、まさにそれ。典型的な事案なのです。
日本が石炭火力発電を続けているということで批判しているのですが、日本もそのままずっと使うつもりではなく、まず高性能化を図り石炭使用量を削減するところから始めています。現在、日本の石炭火力発電は熱効率が40%ぐらい。中国などで使われている古い形式のものだと30%ぐらいなので、それに比べれば石炭の使用量を4分の1ほど減らせている計算です。
次に日本は、ここにアンモニアを混ぜて燃焼させることを計画しています。現在実証実験が進んでいて、今年は実際の火力発電所でも試しました。これでさらに石炭の使用量を減らし、最終的にはアンモニア燃焼のみで発電できるのではないかと、研究を進めています。アンモニアは水素と窒素からできています。炭素を含んでいませんから、燃やしても当然二酸化炭素はできません。目標は2050年。
というわけで、無策というわけではないのですが。
批判のポイントが「石炭火力を延命させ、再生可能エネルギーへの移行を遅らせている」というところになっています。二酸化炭素の削減が問題のはずなのに、火力発電が絶対悪、再生可能エネルギーが絶対善となっている。再生可能エネルギーと言うと、この場合風力発電と太陽光発電なわけですけれども、「風と太陽って素敵だよね」という匂いがプンプンしていて、そういう部分がまったく賛同できないのです。
特に太陽光発電は大規模自然破壊と密接に関係しています。なのに太陽光は綺麗という雰囲気で、そこについて批判をする人がほとんどいません。例えば水力発電も再生可能エネルギーに含まれます。こちらは長い使用実績がある発電方法ですが、建設で自然破壊が起きると反対運動が起きることも珍しくない。さてそこで比較してみましょう。
例えば僕は東京住まいなので、関東圏のダムを例に考えてみます。利根川水系、群馬県沼田市の玉原ダム。最大出力120万kW。これは日本7位の出力です。そこにできた人工のダム湖、玉原湖は面積57ha。ここが谷筋にあった自然や人の暮らしていた村を飲み込むということで、ダム建設は批判されるわけですが。
さてメガソーラーについて考えてみましょう。調べてみると、1MW、つまり1000kWのメガソーラーに必要な面積は2haから3haと言われているようです。120万kWでは面積としては2400haから3600haが必要になり、なんと面積40倍から60倍。ちなみにこれは最大出力で比較しています。太陽光発電は日中短い時間しかその出力では働きません。実際にはもっと必要だということになります。日本の場合、余っている平地が少ないので、メガソーラーが山間部に作られたりしています。まさに自然破壊です。
しかも、ダム湖の場合は確かに谷筋の森は水中に沈むのですが、代わりにできた湖には魚が住みつき、別の生態系が作り上げられます。それに対してメガソーラーで山林を切り開いてしまった場合、太陽光パネルの下には何も生えていません。わざわざ禿山を作っているのです。この結果、土壌の保水力も落ち、災害の危険性も高まっています。熱海の土砂崩れ災害がありました。
さらに進めて、石炭火力発電を全部太陽光発電で賄おうとした場合を考えてみましょう。東京電力の石炭火力発電が、発電が別会社になったりしていてわかりづらかったのですが、どうも400万kWぐらいみたい。上記の計算で行くと80から120㎢。僕の出身の千葉県柏市が115㎢なので、柏市を真っ黒な太陽光パネルで覆いつくせば行けますね。ふざけんなよ!(セルフつっこみ)
しかも、石炭火力の次は他の火力発電がターゲットにされるので、ここで終わりではないのです。
というようにですね、いろいろ問題あるはずなんですよ。他の記事でドイツが本当に再生可能エネルギー一本槍で行くなら、太陽光発電で国土の2%が必要になるという記事も見たことがあります。アメリカとかオーストラリアのように大陸の内部にでかい砂漠があるような、そういう土地ではいいかもしれませんが、実は日本向きではないと言えるのです。風力発電も、あまり安定して風の吹く適地がないと言われていますね。さらに低周波による健康被害も報告されていて、反対している人もいるのですが黙殺されています。
さてここまで太陽光発電反対という感じの記事になっていますけど、ちゃんと問題と向き合って、技術的に解決するという話なら賛成できるんですよ。例えば太陽電池では今、ペロブスカイト太陽電池というものが開発されています。塗って作れるのでガラスや柔らかいプラスチックを基盤にできて軽量で、ビルの外壁素材にできるのではないかというアイディアがあります。これなら自然破壊にならない。
他にも廃棄の問題とかを研究している人はちゃんといて、そういうところを解決してこそ、夢の技術になるはずだ。補助金出してチューチューされるより、がんばってる人に出してほしい。
思考停止している、雑な、「風と太陽だから綺麗だよね」という雰囲気が嫌なのです。
さて、ちなみにこんな記事もありました。
中国のCO2濃度、公表の1・5~3倍で増加…環境省が観測衛星で分析しCOP28で発表へ
【ドバイ=渡辺洋介】環境省は、中国の二酸化炭素(CO2)濃度の年間増加量が、中国が公表している排出源などの情報を基に計算された数値の約1・5~3倍に上るとする報告書をまとめた。中国の情報が不正確な可能性があるという。報告書は9日にも、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で発表される。
報告書によると、日本の温室効果ガス観測衛星「いぶき」が、中国の約7万7000地点で、2009~22年のCO2濃度の年間増加量を観測したところ、0・6~1・2ppm(1ppmは1万分の1%)だった。これに対し、各国が公表する化石燃料使用量や発電所数などの情報に基づいた国際的なデータベースによると、中国のCO2濃度の年間増加量は0・2~0・8ppmで、衛星観測の値が約1・5~3倍に上った。一方、日本と米国についても同様の条件で調べたが、衛星観測とデータベースの数値に食い違いはなかった。
同省幹部は「温室効果ガスの削減目標を定めても、誤差の範囲を超える数値の不一致があっては意味がない。日本は衛星観測でデータの透明性確保に貢献していく」と話す。
読売新聞オンライン 23/12/08
中国の出しているデータがおかしいのではないかという話。中国が都合の悪い数字をいじるのは、むしろ恒例行事です。中国は二酸化炭素排出量では世界有数、日本より圧倒的に上。しかし都合のいい時は大国、都合の悪い時は途上国。そういう二枚舌の国です。
そんな中国をかのNGOが批判しているかと言うと、さっぱりです。ちなみにそちらのNGOの日本支部のHPを見に行ったのですが、12/5にも日本に化石賞を出していて、「もちろん、石炭火力廃止の期限やロードマップはありませんよ!」と批判しているのですが、調べると出てきますけどね、ロードマップ。僕が上の方でアンモニア火力に触れたのがそうだし。電力分野のトランジション・ロードマップ 経済産業省
ほんとに自分たちの正義に酔ってて、考えるのも調べるのも雑だよな。その内情に対する告発記事もありました。
「化石賞」なぜ日本ばかり? 中国、際立つ少なさ―COP28
【ドバイ時事】アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、日本が温暖化対策に消極的だとして、国際的な環境NGO「CAN」から不名誉な「化石賞」を2度も贈られた。温室効果ガスを大量に出す石炭火力発電を使い続けているのが理由だ。一方、世界最大の温室ガス排出国である中国は化石賞にほとんど縁がない。
日本政府は、既存の石炭火力発電を廃止せず、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さないアンモニアを燃料に混ぜる技術を積極的に活用する方針。岸田文雄首相は1日の首脳級会合で、この技術で世界の脱炭素に貢献する姿勢をアピールしたが、CANから、環境に優しいと見せかける「グリーンウォッシングだ」と批判された。
日本は化石賞の常連だ。受賞報告を受けるたびに日本政府代表団は「温室ガス削減の実績を積み上げているのになぜ理解されないんだ」と肩を落としている。
これに対し、中国はほぼ受賞歴がない。CANによると、2013年のCOP19で受賞したのが最後で、新興国で複数回受賞しているインドやブラジルなどと比べても少なさが際立っている。
気候変動の原因となった化石燃料を長年使い続けてきた先進国の責任は重い。しかし、新興国の温室ガス排出も増えており、世界全体での対策が欠かせない。日本政府関係者は「中国は世界第2位の経済大国でありながら、COPではいまだに途上国のように振る舞っている。責任ある態度と言えるのか」と不満をこぼす。
中国が化石賞に選ばれない理由について、CAN関係者は「中国国内でのNGO弾圧につながる可能性もあり、あまり刺激したくないのでは」と分析。その上で、日本に対し「化石賞には批判だけでなく、政策改善への期待も込められている。世界にもっと貢献してほしい」と話した。
JIJI.com 23/12/9
大規模自然破壊に目を瞑っているくせに、グリーンウォッシングはどっちだってえ話だわな。もう本当に欺瞞だからやってられないよな、と思うのです。
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