セントエルモの光
セントエルモの光 久閑野高校天文部の、春と夏 (天川栄人・著)を読みました!
何もない片田舎の久閑野町。そこの久閑野高校に通う1年生、安斎えるも(あんざい・えるも)は困っていた。学校の規則で何かの部活に入らなければいけないのだが、入部したいところがない。それだけではなく、環境の変化にも戸惑っていた。元々はこの町で育ったのだが、中学の時に東京に住んでいたえるもには、この町にはあまりにも何もないように見えた。
そんな時、たまたまふらりと立ち寄った屋上で、一人の先輩に出会う。橋本嵐士(はしもと・あらし)。天文学部だというその人は、クラスの友達とSNSで繋がっていないと不安で仕方ないえるもと違い、むしろ人を遠ざけ、自ら孤独を求めているようだった。そんな先輩に疎んじられながら、えるもは天文学部に入ることにするのだが……。
最近ここに書いている本の感想は、仕事の参考図書として読んだ本のうち面白いと思ったものが多いのです。こちらもそういう本。
仕事の参考図書として本を読むと、当然のことですが、選書に僕の好みはまったく考慮されていません。
面白さとは何だろうということを、ずっと考えているのですが、大まかに分けると二つの方向性があると思うのです。一つは題材としての面白さ。元々そのお話に興味が持てるかどうか。そしてもう一つは伝える腕の良さ。うまく書かれている作品は読者を問答無用でお話に引き込んでいく。
そしてですね、本来僕はこの界隈の読者ではないので、扱われている題材が好みでないことが多い。するとお話に興味が持てない。題材評価優勢で出された本は、たいがい読み続けるのが辛い。
なので、キャラ立ての上手さ、文章の上手さで引っ張ってほしいわけですよ。
このお話はその点、1ページ目から手応えがありました。どのシーンから始めるか、地の文の書き込み具合、台詞回しの軽妙さ。すいすいとページをめくらせる力にあふれています。
しかもですね、タイトルで想像つくわけですけど、題材。星の話だ! これは僕に刺さる題材です。しかも、いい使い方しています。
かつ、僕の好きなポイント、伏線の張り方と回収の仕方も、とてもよかった。嵐士先輩の家庭環境、名前の由来、ちょっと話していたエピソードが、テーマに向かってきゅっと収束する場面が終盤にありました。お見事でした。
こういう作品に出会えるので、仕事の参考図書読みも、あながち苦行ばかりではないと思えます。本当にいいお話でした。
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