どんまい
どんまい (重松清・著)を読みました!
夫の不倫により離婚して、娘・香織(かおり)との母子二人暮らしになった三上洋子(みかみ・ようこ)。これからの暮らしをどうするか、仕事をどうするか、心配事は尽きない。
そんな時、団地の掲示板で、洋子は草野球チームの募集を見かける。年齢不問、性別不問のそれは、洋子に子供のころ、女の子だからと野球を諦めることになった記憶を思い起こさせて……。
主人公は洋子ですが、一緒に入団することになった甲子園出場経験のある加藤将大(かとう・まさひろ通称ショーダイ)、チームのキャプテン田村など、他の人の視点でも話が進む群像劇です。その結果、めっちゃ分厚い。ハードカバーで読んだのですが、最初見た時、これ期日までに読み終わるかなと怯んだレベル。章タイトルが題材の野球に合わせて、イニング1、イニング2……と続くのですが、12まである。草野球なのに延長戦過ぎるだろと思わず突っ込み。
でも読み始めると、さすがの筆力、すいすい読めて面白いのです。
それぞれに背負っている問題があって、その人間ドラマも面白いのですが、野球のシーンがいいですね。草野球なのでレベルはヘロヘロ。しかも普通物語に出てくる野球のシーンではありえない、特別ルールとか対戦相手の設定なのですが。
それだから初心者の洋子と香織も試合に絡めて、そして試合展開はうまくそれを生かして盛り上げている。
好きなシーンは、まず初戦の多摩川カンレキングスとの対戦。チーム加入の条件が還暦を過ぎていること、試合の出場権が年功序列で実質70代というチーム。がんばるとぽっくり逝くかもしれないので外野を抜けたらエンタイトルツーベース、走らなくていい認定ヒットとか認定フライあり。
そんなチームなのに、ノンプロ出身が3人、早慶戦に出た人もいるという歴戦のつわものぞろいで、めっちゃ投げるボールが遅いエースは都市対抗ベスト8でプロの誘いもあったという。初回三者凡退で出番なくネクストバッターズサークルから帰ってきた将大のシーンが最高です。
「ナックルボール、ありますね」
「あのじいさんの決め球だ」田村も険しい目でうなずいた。「現役を引退して、五十過ぎてから覚えたらしい」
「けっこうキレがいいですよ」
「歳をとればとるほど、筋力が落ちて、よけいな力が抜けるからなあ……」
さらには仕事の取引先の接待野球をするはめになったエピソード。こちらのラストがめっちゃ燃える。その前にたっぷりキャラクターを見せているのが効いています。すばらしい!
野球愛に満ち溢れ、そしてさすがの人間ドラマが展開する。とても面白いお話でした。
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