ツバキ文具店
ツバキ文具店 (小川糸・著)を読みました!
神奈川県鎌倉市の小高い山のふもとにある古い日本家屋。小学校のそばにあるその家は小さな文具店。その店を先代の祖母から継いだ雨宮鳩子(あまみや・はとこ)は、先代の仕事、代書屋も引き継ぐことになった。依頼人の要望に応じて、手紙を代わりに書く仕事である。
依頼人は様々な事情を抱えている。お悔やみの手紙、離婚の報告、借金を断る手紙……。鳩子は相手の想いや、その人とのつながり、そういう背景を探りながら、ふさわしい文面、ふさわしい紙、ふさわしい文具を考えていく。そうした中、最後には疎遠になり、死に目にも会わなかった先代の文通相手と交わしていた手紙を目にすることになり……。
実は先にこちらを目にして読み始めたのです。キラキラ共和国 (小川糸・著)
読み始めてすぐに、ああ、これ面白いやつだと思いました。密度がとても濃かったからです。
長く創作に関わってきて、面白さとは一体何だろうと考えてきたのですが、一つ結論としてはこの「密度の濃さ」。情報量が多いこと。言葉にするとうまくニュアンスが出せないのですが、読み手の脳をどれだけ刺激するのかに尽きると思うのです。
刺激というと、波乱万丈なストーリー展開、というイメージが出てしまうので、ここになんかいい言葉がないかなあと常々思っているのですが、のどかな日常ストーリーの中にも確かに刺激は存在します。ほのぼのとかじんわりとか、そういう部分。読み手の感情を動かすものが刺激です。
そうすると、同じようなシーンでも、書き方次第で面白さが変わってくる。例えば家族でご飯を食べるシーン一つで、幸せ感をどれだけ伝えられるか。出てきた料理、食べる様子。伝える文章の描写の仕方で、面白かったりつまらなかったりとなるのです。
そういう部分でちょっと読んだ時点で、イメージをどんどん膨らませてくれる刺激が隙間なく詰まっている、とても面白いお話だと思ったのですが。
それと同時に、なんでこんなに説明がスカスカなのだろうと首をひねったのです。先に興味を引っ張るために、出てきた時点では詳しく説明しないという技術はあるけれど、それにしても多すぎるのではないか。なんとなくの状態で、置いてきぼりにされて話が進んでいく。まるで知っていて当然というように……。
そこではたと、「これもしかして続編じゃね?」と思い至って、調べてみたら第二巻だったというわけなのでした。漫画と違って通し番号じゃないから、気がつかなかったよ。
ということで第一巻から通して読むと、なるほど納得。そして細やかな描写によってたっぷりと詰め込まれた情緒の深さを、ばっちり堪能したのでした。
挿絵の代わりに代筆した手紙が載っているのですが、これがまたいい味が出ていてよかったです。
表紙もいい感じなんだけど、電子版がないから画像が貼れない。残念。
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