季節風 冬
季節風 冬 (重松清・著)を読みました!
僕の友だちじゅんちゃんは、ちょっと普通の子と違う。授業中にじっとしていられないし、踊りだしたり歌いだしたりするし、ふいっとどこかへ行ってしまう。幼馴染の僕はそんなじゅんちゃんの世話係。学年が変わってもクラスは一緒で席は隣。大変なことも多いけれど、僕はじゅんちゃんが好きだった。だってじゅんちゃんが僕のことを「あいぼー」と呼ぶほど大好きだったから。
小さなころは、面白いことを言ったりやったりするじゅんちゃんはみんなの人気者だったけれど、学年が上がってくるにしたがって、だんだんクラスで浮くようになってしまった。じゅんちゃんのお母さんが学校で様子を見守るようになった。転校するかもしれないという話も聞いた。そんな時に僕はじゅんちゃんとケンカをしてしまい……。
こちらは冬の季節のお話を集めた短編集。いろいろバラエティーに富んだテーマで書かれているのですが、上のあらすじに書いたのは、その中の一編『じゅんちゃんの北斗七星』です。
こちらは、知的障害のあるじゅんちゃんという友達がいた男性が、昔を思い出す話。その回想の部分がもう、切なくて仕方ない。
幼馴染でじゅんちゃんと同じ年の小学生なので、何が起きているかわかっていないことがたくさんあります。じゅんちゃんの両親が、やたらと自分に優しかったこと。「ずっと友達でいてね」と強くお願いされたこと。学年が上がって、じゅんちゃんのお母さんが学校の様子を見に来ていた時の表情。その時にはそれに隠された意味に気付いていない。でも、大人になった今はわかる。
そして当然、読者の僕たちにもわかっているのです。めっちゃ切ない。
そして子供ながらに、わかっていなくても感じるところがあり、じゅんちゃんに対する一言では言い表せないとても複雑な思いを持つように。それを表した文章は、文章としては矛盾している。でもそうとしか表現できない気持ちなのです。この心中をおもんばかると、これまた切ない。
そしてタイトルにもなっている北斗七星の使い方が、また象徴的ですばらしいのです。素敵な視点なんだけど、そういうことを言っちゃうじゅんちゃんを思うと、めっちゃせつない。本当にすばらしい短編でした。
他にもう一つよかった話を挙げると、『サンタ・エクスプレス』でしょうか。5歳の小さな女の子。お母さんが下の子の出産で里帰りしていて、毎週末新幹線で会いにいく。行く前はお母さんに会うのがとても楽しみではしゃいでいるのに、帰りの新幹線では哀しくなってすっかり黙り込んでしまい、お父さんも困っている。
そんな時、お母さんがわざわざ各駅停車の「こだま」の乗車券を予約して、これで帰ってねと二人に渡す。
お母さんの企みが本当に素敵で、こちらはほんわかと心が温まる短編でした。
その他、どの作品もそれぞれに、読んだあとにじんわりと心に残る読後感がありました。
すいすいと読ませて、読み終わったあとにしっかりと何かを残す。こういうのが本当にうまいということなんだろうなあと思います。憧れ。
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