AIと著作権と創作の本質
こちらの記事を読みました。
AIの作ったアートに初めて著作権登録が認められる Gigazin 22/9/27
アメリカでAIを使って絵を描いたコミックに著作権が認められた、という話題。今年の2月にアメリカの著作権当局がAIの作った作品に著作権はないという判断をしているのだそうです。ただ今回は、AIをどう使ったかを公開して、お話作るところとか画面構成するところは本人がやったと認められた、とのこと。AIが絵を描く道具になったわけですね。
最近、ディープラーニングの手法を使い、めっちゃうまい絵を描くAIが話題になっています。ここまで来たかあという感じです。
それに対する僕のスタンスは、微妙なところです。
あまりにすごい変革で、絵を描くということの意味まで変えそうなので、戸惑いはあるのですが。
ただ、考えてみたらこの手の「簡単に描ける」という技術革新は、今までもあったよなあと。
例えば漫画においてはトーンの発達がありました。僕に一番影響があったのは、背景に使う柄物のトーンですね。渡辺道明先生のお仕事を手伝っていたころ。僕に任された大仕事として、点描打ちがありました。空間に細かく点々を打ってほわっとした光の表現をするのです。特に黒地に白の表現は、密度を高めなければいけないので、打つのは大変。しかもそういう表現は決めゴマに使われることが多いので、面積も広い。
そんな大変な作業が、そういう柄のトーンが発売されて、あっという間にできるようになりました。点描の物も発売されましたし、グラデーションの物も出た。もう手で打つ必要がないのです。ペタッと貼って数分で出来上がり。渡辺先生の仕事場では、そのトーンの呼称が「ひろしいらず」略して「ひろいら」となりました。ひどい話じゃよ。
それ以外にも柄物トーンで代替された作業はいくつもありますね。
デジタル化によっても同様の事態が。昔々、トーンの重ね貼りを多用した画面作りが流行りました。さらにトーンをカッターで削ってぼかす技法も。こちらも大変な作業なのです。
重ね貼りをきれいに見せるには、上下のトーンを正確に重ねなくてはいけません。角度をきちっと合わせて、かつちょっとだけドットが重なるように貼る。0.1mmとかそれ以下。そういうレベルの精度が求められます。
さらにトーンの端を削ってぼかしていくと、影の濃淡のグラデーションがリアルに表現できる。カッターの刃先を使ってトーンのドットを削ります。この時、ドットの角度に対していい感じにずらす。そういう削り線を等間隔で細かく入れる。しかも、その時ドットの一部だけ削るようにする。こちらも0.1mmとか、それ以下。そういう精度です。
そうまでして作っていたきれいなグラデーションは、今は楽勝です。デジタル作業であれば、エアブラシなどでグレーに塗って、レイヤーをトーン化すればお終い。
緻密な背景を描く能力も人の手から離れてきています。写真から背景を描く写真トレスという技法がありましたが、これは画像データから輪郭線を抽出できるようになりました。3Dデータを一度作って、それを背景に使うこともできます。ブラシの柄を作ることができるので、例えば葉影の柄を使えば、森を細かく描くのもさっとひと塗り。
こうして技術革新によって、人の手間と技術は代替されてきたのです。それをがんばって身につけた者としてはむなしい限りですが、まあ便利なんだから逆らってもしょうがない。AIによる描写も、いろいろ揉めながらも普及していくのではないでしょうか。
ただ、それで作られる部分は、誰でもできちゃうだけに価値がないんですよね。
上記の例も、今ではそういう画面を作れることは特殊技能じゃなくなっている。売りにならなくなっている。
じゃあ逆にAIができないことは何だろうと考えると、個性的であることではないかと思います。たくさんの例から学習する性質上、独自表現は生み出しづらい。ディープラーニングさせるサンプルに手を入れればできるかもしれませんが、使う人は手ごろに売れるものを作りたいわけだから、試行錯誤が必要なそういう手間をかけないのではないか。
例えば漫画の流行り絵柄には変遷がありますが、あれは何か流行りがある中で、誰かがそんなのは気にせず独自の道を行って評判になり広まる、ということの繰り返しなはずです。
今だと瞳の描き方が特徴的ですよね。瞳孔の部分をベタではなく白くする表現が見られます。ルーツまでちゃんと追えてないんですけど、ああいうのも誰かが閃いて始まったわけですよ。「白くするべきという合理性」はないから、本当に「なんかいいかも」という個人の感性。
そういう部分はなかなか置き換えられないと思うので、結局、自己表現を突き詰めるという、創作の本質は残るだろうと思われます。そういうところを磨かないと。
そして、AIは便利な道具になるだろうから、使い方とか使いどころとか、うまいこと使いこなすのが重要なんだろうなというのが、本日の結論。
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