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2022/09/13

峠うどん物語

峠うどん物語 (重松清・著)を読みました!

峠うどん物語 上峠うどん物語 下

中学生の野島淑子(のじま・よしこ)は、無口で頑固一徹職人気質の祖父と、おしゃべりで世話焼きでぐいぐいと押しの強い祖母が切り盛りしているうどん屋を、ちょくちょく手伝いに行っている。元は風光明媚な峠のうどん屋だったのだが、目の前に市営斎場が出来てから客層が変わってしまった。葬式帰りに立ち寄るお客さんからは、それぞれの事情が垣間見えて……。

前後編二冊組。亡くなった人と残された人々を書いた作品なのですが、葬儀場本体ではなく、道路一つ隔てたうどん屋、というシチュエーションが絶妙です。

舞台を葬儀場の中にしたり、主人公を寺の住職や医療関係者にしたりと、人の死を直接扱うシチュエーションにすればお話は激情型の悲劇になるのですが、通り向かいのうどん屋さんに来るのは、通夜ぶるまいや精進落としに預かるほど故人と親しくない間柄、しかしさりとてすぐに帰りのバスに乗って山を下りて街に戻るのはちょっと……という感じでうどん屋に立ち寄る、微妙な関係性の人達です。

悲しいは悲しいのだけれども、号泣するほどではない。さりとて、義理で顔を出したというだけでもない。その絶妙な距離感。それが作品全体を貫いていて、人の死、人生の終わりが淡々とした筆致で描かれる。だからこそ逆に、死とはなんだろう、人生とはなんだろうと考えさせるのです。

そうして最後のエピソードでは、そういう人たちを眺めてきた淑子自身が、そういう葬儀に立ち会う立場になる。テーマがすっと通った、とてもいい作品でした。

独立した短編の連作の形式を取っているのですが、前に出たエピソードを伏線として、ちょっとファンタジーな風味で仕上げた『立春大吉』と、近所のみんなに信頼されている町のお医者さんが自分の妻の最後に寄り添う、『本年も又、喪中につき』がとてもよかったです。

重松先生は本当にうまい。

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