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2021/10/04

読者を集めるのもお仕事のうち

ちょっと前に、「ツイッター漫画を描いていたら出版の話が来たので打ち合わせに行ったところ、フォロワー3万人が出版する目安ですのでがんばりましょう、という話をされただけで本は出なかった」という話を見かけまして。

この記事を書くにあたり、確認しようとツイート検索をかけたところ、他にも同じような逸話が描かれた漫画が引っかかったので、けっこう話題になっていた様子。

今日はこのエピソードから考えたことについてです。

ツイッターの漫画はただで読めるので、全員がお金を払ってくれるとは限りません。むしろなんとなく見ているという層が多いでしょう。その中で10人に1人はお金を出して買ってくれるとして、フォロワーが3万人いれば3000部。もうちょっと割合が低くても出版してくれるかな? フォロワー3万人は、なかなか現実味のある数字です。

けれども、このツイート自体は、出版社に対して批判的な感想とともに広まっていた感じ。

まあ、さもありなん。自分から声をかけたんだから自分が作者に会いに行けばいいのに、呼びつけておいて交通費も出さないとか、基準がフォロワー3万人なら3万人超えてる人に声をかければいいのに、先にツバをつけて囲い込んで保険をかけておきたいという下心が見え透いているとか。そんなところに、書籍化したいでしょ? してあげるんだから嬉しいでしょ? という出版社の心情が見える感じがしますからねえ。

ただ、本日の本題はその先です。そんなことでいいのかなと思ったのです。

この話題の背景には、現在の出版を取り巻く環境の変化がよく出ています。ネットがやってくる以前の出版では、読者を集めるための装置が書店でした。そして、中身を書くのが作家、本の形にするのが出版社、売るのが書店という役割分担が、けっこう明確だった。さらにその中で、出版社は世に流通させる本を選別する、関所の機能がありました。

そこにネットがやってくると、だんだん役割が変わってきます。まず読者を集める装置のところ。ネットがない頃は、本の情報は本屋で現物を見て知るというのが多かったわけですよ。昔々は本好き、漫画好きの人は、具体的な予定がなくても本屋に足を運び、そこで新しい作品と出会っていた。 新聞の広告とか、電車の中吊り広告なんかもありますが、それの効き具合はジャンルによる。僕の場合は漫画だから、圧倒的に本屋。SF小説も本屋。

それが現在、街の小さな本屋さんはどんどん潰れ、書店無し自治体も多くなり、紙の本もネット書店で買うことが普通に。すると、情報流通の経路が変わってきます。出会いの場がネット上に移行しています。

そうすると、フォロワー3万人という話が出てくるわけですね。それだけの購買予備群と、もう出会っている。絶対的に有利。

ただ、情報流通の経路だけでなく、販売経路もネット上にできあがりました。本にまとめるのも、電子書籍を作るのであれば、そう難しいことではありません。セルフパブリッシングが手軽にできるようになっています。

ぶっちゃけ3万人のフォロワーがいて、本を買ってくる3000人の固定客がいれば、セルフパブリッシングで専業は可能です。もうそこで完結させられるのです。

紙の本を全国流通させるには取次会社を通さなければならず、その取次会社は出版社と取引している。個人で取引するのは相当困難なので、そのルートを通るしかない。何を出版するのかの決定権は完全に出版社の手にあって、ここが関所となっていた。でも電子書籍等のサービスが出てきて、関所を通らなくても、迂回路ができた。

もちろんプロに頼んだ方が、クオリティは上がります。プロの編集さんにチェック受けた方が内容のクオリティは上がるでしょうし、プロのデザイナーさんに頼んだ方が装丁回りとかずっと見映えがよくなるでしょう。その他もろもろ、クオリティが上がるであろう細かいところはたくさんあります。

でも、関わる人が増えれば、当然コストも上がります。実際、印税の割合が何分の一かになってしまうのです。クオリティを上げた「だけ」で、それを取り戻せるほど売り上げが変わるのか。

つまり今の出版社が、まず語らなければいけないのは、「我々と組んでくれたら、あなたの作品を今よりずっと世間に広めます。売り上げを何倍、何十倍にします」ということだと思うんですよね。

漫画サイトで成功しているところは、もう人が集まっているので、そこに載った方がたくさんの読者と出会える可能性は高まりますから、このパラダイムシフトに対応できていると言えるでしょう。しかしツイッター漫画はどうか。

相手出版社は明かされていないので、実際どうなのかはわかりませんが、映像化まで引っ張れるぐらいの強いコネのある大手出版社、大手編集部なら、すごいブーストがかかる可能性を夢見ることができるからいいとして、もし違った場合。

読者を集めるところを作家に頼っていたら、出版社の存在意義があるのだろうか。

書き手にとって、書籍化がまだ憧れの存在ではあるので成り立っていますが、それもいつまでもこのままだとは思えない。エロ漫画なんかだとじわじわ崩れてきてますよね。

前述の通り、相手がどこだかわからないので言い切れないんですけれど、もし人を集められないところが作家の集客力に頼っているという話だとしたら、このあたりの危機感が足りてないんじゃないかなと思ったのでした。

そして、さらに前述の通り、フォロワー3万人ってビジネス的に説得力のある数字だなあと思ったので、自分を顧みて、3万かあ……と、遠い目をして空を見上げていたことも付け加えて、本日は終了。

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