創作のストック&フロー
5/16に文学フリマ東京がありまして。
ああいうところに行くと、ただ単に売れた売れなかった以外に、会場に溢れる創作の熱気に当てられて、刺激を受けるのが常なのです。
今回もそうでした。刺激を受けるといろいろと頭の中を駆け巡ります。そこで帰ってきてから考えたことを整理していて。
その中でふと「創作のストック&フロー」という言葉が浮かんできました、というのが今回の記事です。
ストック&フローというと経済の話でよく出てくる用語ですね。ストックというのが資産と借金。フローの方がお金の出入りについてだそうです。以前、こちらで紹介しました、『電子と暮らし』の中で、作品は資産と表現していたのが僕の頭の中に残っていて、「ストック&フロー」にたどり着いた模様。
過去作品群がストックならば、フローは今現在書いているものとか、今流している情報とか、そういうイメージ。
そうすると、フロー型が以前から主流の書き方だと言えるでしょう。今現在書いているものが流れていき、読者の手元に。例えば漫画の連載がわかりやすいのではないかと思います。
小説家になろう等の投稿サイトで、推奨される書き方でもありますね。理想は毎日更新。たくさん接触することで人気を得て、ランキング入りできればいい循環ができあがる。
それに対してストックは。以前から、著名小説家にはストック買いがありました。お気に入りの作家ができると、名指しで他の作品も集めていく。ただ、それはどうしても一部の作家のものでした。本屋さんの本棚の容量に限界があるためです。売れてない人の本も棚に並んでいるというわけにはいきませんでしたし、売れていても長いシリーズになる漫画では、過去の連載作まで並ぶということは、なかなかありませんでした。
ところが、そこから少しずつ状況は変わってきました。一つ大きかったのは、ネット書店。ロングテールと言われる売り方が発生しました。書店店頭で売るのではないので、巨大倉庫に大量の品揃えを確保できます。すると塵も積もれば山となるとばかりに、売れないものとされてきたような作品、売り上げグラフで言うと尻尾の部分が、全体の半分を占めるように。
さらに、電子書籍では、既刊まとめ買いが発生。一時期は売り上げの多くを占めると言われたことも。
どちらも作品が、物理的な本棚の容量から解放された結果です。過去作品が資産として、売り上げに貢献するようになりました。
受けとる方も変わってきています。古い昔のものでもネットで出会うことができるようになった結果、過去作品の意外なヒットというのが生まれるようになりました。
こちらはこのあいだ読んだ記事。前半はお金の話ですが、後半に古い、新しいがなくなってきているということについて触れています。「マンガや小説にお金を使わない中高生」を、どう受け止めるべきか?「いま・ここ」という新しい受容の文脈 大橋崇行 現代ビジネス21/5/15
この影響があるんじゃないかと思っているのが、週刊漫画の描き方の変化です。一番感じるのはジャンプの漫画ですね。ジャンプはアンケート主義で有名でしたが、それはとにかくフロー重視だった、とも言い換えられます。その場その場の瞬間最大風速的な面白さを追求していました。その結果、引っ張りに引っ張って、お話としてはぼろぼろになり力尽きて終わる、という副作用が見られる場合もあったのです。
それは連載している間しか売れないという現実があったからとも言えます。古本で最終巻にすごいプレミアがついていることがありますが、売れ残るのを避けて、発行部数自体を絞っちゃうからだと聞いたことがあります。
しかし最近は、とてもきれいに終わる作品が増えたように思います。これは作品の連載が終わったあとでも、まだまだ売り続けることができるようになったからでは。作品全体のお話としての完成度が評価される土壌ができた、ということではないか。
『鬼滅の刃』なんか典型的ですよね。昔々なら、あれだけ人気絶頂の作品は引っ張りに引っ張られていたはず。十二鬼月を全員倒しちゃったのであれば、なんか新しい敵を出す。なんなら鬼舞辻無惨を倒した後でも、新しい敵の親玉が出てきてもおかしくはない。
それが本当に人気絶頂のところで、スパッと綺麗な形で終わっている。そして、終わったあとも、売れ続けた。
ほぼフローのみだったところに、ストックの影響力がだんだん大きくなっているのかなあと感じます。
さて、そこから自分の話。
個人出版のみならず商業出版でも、これからはまず自分の力でお客さんを掴まないとダメだろうと思っていて。
そしてその場合やはり、毎日毎日更新するというような、フロー最大強化な手法の方が強いであろうとも思っていて。
しかしそう思っていても、その時間がひねり出せるかというのはまた別。常にその壁にぶつかっているのです。
そんないつもの課題に頭を悩ませていたところ、上記のようなストック&フローについて思い至って。
自分のストックを考えてみたら、ネット上でアクセスできるのが、ちょうど10本あるんですよ。気がついたらけっこうたまってた。
そして、フローとしては、宣伝もそうだよなと思ったので、何かのおりにどかっと連投するのではなく、せっかくストックはあるのだから、一日一善ならぬ一日一宣という感じでこつこつ流そうかなと考えた次第。連日お送りしております。気が向いた時にでも、覗いてやって下さい。
作品のフローも増やせた方がいいに決まっているので、がんばりたいと思います。
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