電子化されない問題
恒例の日曜日……ではなく、今週から月曜日となりました、HON.jpブロードキャスティング。日曜日はいつも仕事でライブ参加できなかったのですが、じゃあ月曜日になればできるのかというと、そこにはこれまた別の仕事がー。やはりライブでは見れず、後半の懇親会にも参加できず。むむう……。
ということで、今回のゲストは文筆家で編集者の吉川浩満さんでした。最近刊行された本がこちら。
編集者としては晶文社でお仕事されているそうです。
さて今回本編で気になった話題は、最初に取り上げられた、「読みたい本にかぎって電子化されない問題」です。
吉川さんが例にあげていたのが、学術系の本でした。確かに、分厚い本は電子化されている方が、取り扱いも保管もラクチン。資料として使うことを考えると、キーワードを全文検索してヒットする方が便利です。むしろ電子化の優先順位が高いジャンルではないか。
しかし残念ながら現実は逆です。関係者の話として挙げられていたのが、電子書籍は売れると思われていないし、また実際に売れていないのだとのこと。ある出版社では紙:電子の売り上げが7000万:60万だったそうです。そして電子化のコストは文章ものの方が高い。漫画のePub化が数千円、文字ものは数万円で一桁違う。
なので、小さい出版社から出るようなその手の、数千部しか出ないような本だと、コスト負担感が大きくてなかなか電子化されないのだろうとのことでした。
お話を聞きながら、文章ものの方が電子化が大変というのは書き手の側からするとちょっと不思議な話だな、と感じていました。ほとんどの著者がデジタル環境で文章を書いているのではないか、と思うからです。
例えば実際に自分は、漫画も小説も個人出版しています。漫画はいまだペン入れまでアナログですが、そこから読み込んで仕上げはデジタル。小説は初稿が箇条書き過ぎて推敲でいじり倒すタイプなので、PCじゃないと書けない。どちらも原稿はデジタルデータで、じゃあそこから先の手間はと考えるとそんなに差はない。
でも実際は、デジタル化の手間にコストがかかっているし、敬遠されている。不思議。
これは、とりあえずぶっこんでしまって電子書籍化する僕と、紙の本として印刷するために一度版下を作っている出版社との違い? そこからリフロー型のデジタルデータに戻さないといけないからということ?
商業出版のこの辺は、原稿を渡してしまうとそこからの実作業は体験しない作家にとっては、未知の領域です。
そしてなかなか難しいなと思うのが、本来であれば小回りのきくデジタルファーストの本作りの方が、小出版社に必要なはずだという点です。例えば僕が使っているBCCKSだと、電子書籍と同時に紙の本のデータを作って、オンデマンド本にできます。個人出版向けオンデマンドサービスは他にもあるので、商業出版でも技術的には可能なはず。
ちょうどこんなツイート見かけたんですよ。ロングテールで長く売る戦略の障害となる、倉庫代の話。
紙の本を溶かした後に「50冊買いたい」という注文が来た場合、「重版されるか?」というと、まずされません。本の設計にもよりますが、多くの本は最低でも1000部~2000部は刷らないと利益が出ない。「この本は、残り950部を売るのに5年はかかる。倉庫代を考えたら重版は不能」などと判断されがちです
— KADOKAWA 教養統括部 学芸NF編集部 編集委員クドー (@digi_neko) March 8, 2021
ちなみにこのスレッドの下に、解決策として取り組まれているオンデマンド印刷の記事がぶら下がっていました。僕の想定、筋悪くなさそう。少部数の本を出す出版社の場合、やっぱりオンデマンド印刷を戦略の中に入れ、ということは最初から電子書籍もワンセットで考えた方がいいのでは。
ただ、これぐらいのことは中の人も考えていて、でも長年の出版慣行、例えば装丁の問題なんかがあり、さらに紙の本の場合には擬似金融システムとも言えるような流通の仕組みが発展していることもあるから、そこから簡単に抜け出せないのかなと。
そうだとすれば、技術の進歩により救われるべき人が救われていないという、皮肉な展開。
さらに言っちゃえば、そこでゼロからデジタルファースト出版という形を作った人が、そのポジションに入れ替わっていくのかなと思ったのでした。
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