電子と暮らし
電子と暮らし(西島大介・著)を読みました!
2/21のHON.jpブロードキャスティングにゲストで来られた西島大介さん。ブログにも書きましたが、その活動がとても興味深かったので、紹介された本を買って読んでみたという次第。西島さんがイタリアからの出版オファーを契機にして、自作の権利を自分で管理し、個人出版していく体験記です。その時その時に考えたこと、感じたことが記されていて、とても面白く読めました。
さらにこちらの本は次の週のゲスト、竹田信弥さんの双子のライオン堂書店からの出版です。そちらでも、自ら情報発信していく、これからを生き残ろうとする書店の姿に感銘を受けていたところでした。
つまりこの本は、僕がここによく書いていることに関連している。それは次世代の出版の形。小さいサイクルで個人がなんとかするという形です。
本との出会いの主戦場がリアル書店の店頭からネット上に移っていっている現在、ネットの性質上、売れるものはどんどんピーキーになっています。バズって話題になったものがわっと売れ、そうじゃないものは埋もれる。そうした状況下で目先の売れるものを追っていくと、後追い後追いになって先細ってしまう。次の当たりの種を確保するためにも出版の多様性は重要で、それを維持するためには、採算ラインを下げる必要がある。埋もれた状態でも一応回る、ダウンサイジングした小さなサイクル。
大きな出版社は体力があるので、自社内で売れてるものとそうじゃないものがバランスしていればいいのですが、もともと小さいところが担っていたジャンルは、これを考える必要があると思うのです。
さて、そういうことを考えている中で、この本を読んで特に感銘を受けたのが2カ所ありました。
一つは『その2 合言葉はネグレクト』の中に出てきた、「作品は資産」という言葉。
そういえば、メールのやり取りと顔合わせ以外、僕はこれといった仕事はしていない。1ページもマンガを描かず、作品を右から左に動かしただけ。その時初めて「作品は資産」と気がついた。そして僕はありがたいことにけっこうな冊数をこれまで刊行している。過去に国内で売り上げが芳しくなかったとしても、ほったらかしでも、それは資産。
多分これはビジネスだ。僕にとって初めての資産運用が始まった!
イタリアからのオファーに対応していて、自分の作品群の秘められた可能性に気がついた西島さん。電子書籍に自分でまとめようと思い立ち、考えていく中で、電子書籍には、とりあえず無料で読んでもらって「続きをもっと!」という状態に持っていくため、次々と読みたくなる読み心地とある程度まとまった冊数が重要だという考えに至ります。セールを機会に入ってくる人が多いため。そうなると、自分の過去作品のストックが効いてくる。
確かに電子書籍には、続きが気になるとつい衝動買いしてしまう、簡便さからくる魔力があります。まとめ買いも容易です。そう考えると作品をため込むことは重要そうです。「資産」という言葉はそれをイメージしやすくていいですね。
もう一つが『その52 公人は私腹を肥やす?』の中に書かれていた文章。
今までも、そして多分現在も、僕は完全に「私的な動機」でマンガを描いている。(中略)「出版」の英訳は「パブリケーション」。公にすることが出版社の役割。僕はそれを個人で、電子書籍でやろうとしている。
極めて私的な動機や体制で制作されながら、それがとてつもないポピュラリティを生む、そうな素晴らしい作品や奇跡のような現象はたまにある。正直羨ましい。
そういうものを、いつか生み出されたらなといつも願っているけど、現状は「じゃ、勝手にやれば?」と誰にも相手にされていない状態。だから僕は作品という「私」を、出版社ではなく自分自身で「公」にする必要がある。
自費だとか非流通だとか、コミケとかアートブックフェアとか、ISBNがあるかないかではなく、「セルフ・パブリッシング」って本当はそういう決意のことだ。たぶん。
うむ、そうだ。自分でやったるぞという決意、それがセルフパブリッシングの本質。
僕もやったるぞと、決意を新たにしたのでした。
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