生き延びる文化拠点
まだまだ引き続きまして、HON.jp News Blogの大原ケイさんの短期集中連載記事を読んで考えたこと。本日は第4回と第5回からです。
アメリカの書籍出版産業2020:これまでの10年と、これからの10年について(4)~ 出版社のこれからの10年を握るカギはやっぱりアマゾン/書店の二極化:大手チェーンとインディペンデント書店 HON.jp News Blog 20/1/14
アメリカの書籍出版産業2020:これまでの10年と、これからの10年について(5)~ インディペンデント書店はなぜリバイバルできたのか? HON.jp News Blog 20/1/15
今回は書店について。前後編のようになっています。
この感想記事を書き続けるきっかけが、正月前後に「書店は文化拠点だから守れ」というお門違いのツイートをいくつも見かけたからだということを書きました。本好きの読者の人が言ってるのはいい。それは愛だから。お門違いだと感じたのは関係者が言ってるのを見たから。それに対する正直な感想は。
読者に自分の価値観押し付けんなよ。ほんとに文化拠点でそれが重要だと感じていたら、言われなくっても守ろうとするわ。自分の活動がそのレベルに届いてないんだということを知れ。自分は正しいんだから自分たちが守られるのが正義とか甘えてるうちは、どうにもなんねーよ。
何でここまで辛辣なのかというと、普段から「知を司るとふんぞり返っているところほど環境の変化に対しての対応が遅く、それを眺めて、生き延びるのに役立たない知とは果たして何ぞや、と苦々しく思っている」からですね。出版不況(この言葉が定着している時点で環境変化を読めてないんだけど)に関心があって、ずっと見てきて、ずっと思ってる。もう10年単位でそういう不満がたまってるのです。
実際には本屋に文化拠点の役割はあると思います。そしてちゃんと活動していて、本当に文化拠点として成り立っている本屋さんもあるわけですよ。しっかり考えて行動に移している。そういう話を聞くとすがすがしい。そういう人はめちゃリスペクト。
そしてこちらのシリーズ記事を読んでいたら、そういう素敵な話が載っていた。アメリカは状況がもっと進んでいるようで、アマゾンvsインディペンデント書店(大規模チェーンは死にかけ)という状態の模様。でも、そのインディペンデント書店がたくましいのです。
アメリカの書店ツアーに参加する人は、こういったインディペンデント書店が「こうすれば必ずウソみたいに本が売れる」といった斬新なことをやっているのではないかと期待して見に来るようなのだが、残念ながらそんなマジックは存在しない。こういったインディペンデント書店が生き延びられるかどうかはひとえに、地元の顧客を知り尽くしてそこにコミュニティーを形成しているか、そしてどこまで返本率を抑えた仕入れができるかに尽きる。
そこそこ上手くやって赤字が出ていないインディペンデント書店で、返本率が2割を超えるところはおそらくない。B&Nが今の経営難に陥る前の数字が25%〜30%だった。書店ツアーで私が必ず立ち寄る「グリーンライト・ブックストア」のオーナー、レベッカ・フィティングは、同店の返本率の数字を上げているのは、朗読会やブッククラブなどの店内でのイベントで、どうしても多めに注文してしまい、消化しきれない分を返品しているからで、イベントをやらなければ返品率は10%以下に抑えられるはず、と言い切った。
かっこいい。惚れそう。
もう一つ、重要だと思ったことがあって。「アメリカは本の安売りがあるので、インディペンデント書店的には売れ筋の本は量販店が大量に安くさばくので旨味がなく、売れている本ではなく『これから売れそうな本』を仕入れている」というところ。そういう目利きがバイヤーの肝。
本の生態系を考えた時に、そういう本の被発見性を上げるべく力を注いでくれるところがあるというのは、とても重要です。これこそまさに、文化拠点の役割です。
この感想のシリーズで何度か触れましたが、日本の方が薄利多売の状態になっている節があるので、もしかしたら日本の方が生き残るのは難しいかもしれない。でも、その中で真に文化拠点として生き残る、素敵な本屋さんが増えてくれるといいなあと思っているのです。
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