アンダーグラウンド・マーケット
アンダーグラウンド・マーケット (藤井太洋・著)を読みました!
東京五輪が近づく2018年。労働力流動化条項により移民が大量に流入した日本。Webエンジニアの木谷巧(きたに・たくみ)は就職に失敗し、友人のデザイナー鎌田大樹(かまた・だいき)とともに、移民たちの作る地下経済で、Webサービス構築の手伝いをして生計を立てていた。
飛び込み先で出会った凄腕エンジニアの森谷恵(もりや・めぐみ)とも組んで、仕事を受けていた巧は、クライアントの齋藤のところで、国内最大手通信会社の城村有沙(きむら・ゆさ)と出会う。彼女は地下経済で流通する仮想通貨N円のポイントサービス、ピタットを開発していて……。
『Gene Mapper』はバイオテクノロジーの話。『オービタル・クラウド』は宇宙開発の話。けっこうはっきりとSF的なテーマが示されていたのですが。
こちらのお話は仮想通貨と移民の話で、しかも東京五輪前。近未来SFというにはかなり、現代物に近い構造です。舞台もほとんどが東京都内。ご近所で時代も近いとなれば切実感が違います。というか、発行2016年の2年後で、2018年が舞台って今年だよ!
実際、いつも通勤で通る池袋とか、外国の人が本当に多いですしね。
ただ移民問題で厳しい現実を書いたように見える今作ですが、実は世界中の人となかよく暮らすという理想に基づいて書かれています。移民が流入して、格差が拡大して、日本人でも一度レールから外れてしまうと苦しい暮らしになる、現実でも起きかねない怖い設定なんだけど、そこにも人の暮らしと交流があるんだというような。
現実のヨーロッパやアメリカで移民との軋轢が大きくなっている中、そういう藤井先生の基本的にポジティブな姿勢が浮き上がってしまうのは悲しいところ。作中では移民の人たちがフリーライドをよしとしておらず、同じ場所に暮らす仲間としての義務を果たそうとしているいい人たちなのですが、現実はそうじゃない人も多い。理想的な関係は、双方がその理想を実現しようとして初めて成り立つ。日本はどうなるんでしょうかね。
というようにフィクションとして楽しむよりも、ヒリヒリとした現実感に色々と考えさせられてしまう、そんなお話でした。
作品づくりの視点から見た場合、これは藤井先生の作り込みがしっかりしているという証だなと思います。リアリティを生むために、情報を詰め込み、世界をしっかりと構築してある。やっぱりそのあたりの密度がすごい。
そしてリアリティということで言えば、よく知らないのに知ったかぶって事態を悪化させていく斎藤のキャラが、いい味を出しているなと思いました。モデルがいるのかなw
さて、宣伝もしなければ!
アイディア、知識、描写と高密度に詰め込んで、他を圧倒する質量の作品を書く藤井太洋先生の頭の中はどうなっちゃってるの? というところを覗いてしまおうというイベントを立てました!
興味深いお話が聞けること間違いなしです!ぜひご参加ください!
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