天鏡のアルデラミン ⅩⅣ
ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン ⅩⅣ (宇野朴人・著)を読みました!
最終決戦が始まった。攻めるキトカ共和国。率いるは「不眠(ねむらず)の輝将」ジャン・アルキネクス。新たにもたらされた新技術、精霊通信を用いて全軍を掌握、自ら全ての部隊に指示を送る。受けるはカトヴァーナ帝国。自国に引き込んで敵の消耗を誘う作戦。新戦略イクタ・ドクトリン「休める時にしっかり休む」で、長期戦での勝利を狙う。
対照的な、けれど稀代の名将二人による、拮抗した攻防。決着がついたと思った最後に放たれた、誰もが思わなかったイクタの一手が……。
最終巻なので、全体を通しての感想を。まず、第12巻の感想として書いたように、すごいSFでした。
最初に見たのはアニメの第一話で、初見の印象は、ライトノベルによくあるファンタジー。そのあと小説を読むと、精霊の設定にSF的なものがありそうだという感じでした。
近年ではSFとファンタジーのいいとこ取りの作品は数多くあるため、それはあまり珍しいと思えるものではなく、むしろちょっと地味だなと思うぐらい。
さらに、そういう作品は科学と魔法の共存みたいな形なのですが、そういえば魔法が出てこない。さらに地味。戦争における技術発展がテーマになってて、それも地味。地味でしっかりしたお話は好みなので、うきうきして読んでいたのですけれど。
それが第12巻で、世界設定の全貌が明かされた時。これはSFとファンタジーのいいとこ取りの形なのではないと気がつかされます。一見ファンタジーに見えるけれども、実は壮大なSFだったということ。
SF&ファンタジーのいいとこ取りをする作品の狙いは、映像的に派手な要素を並べることで、そこで派手な魔法がないから地味だなと思っていたけれど。
SFとしての全貌が見えた時、今度はSFの持つ派手要素、全世界の運命を語る壮大さが浮かび上がってきます。その部分は超ド派手な話だったよ! SFファンとして感嘆させられました。
そして全体を通したお話の筋。
最初に第一巻を読んでいた時、途中までは「地味だけど、キャラの掛け合いが楽しくて、まあまあおもしろい」ぐらいの感想でした。それが最後に、大どんでん返しが提示されて、続きを読まねば! と変わります。
そこで示された伏線が、物語の底流として、ずっと潜んでいて。どうなっちゃうのかなと、ずっと気になっていたのですが。
それがこの最終巻でどばっと表面化。しかもこの作品は、途中で想像を上回る手厳しい展開を見せて、ヒロインだろうと思われたヤトリが退場しています。ハッピーエンドにならない可能性が十分にある。どんどん悪化していく状況に、手に汗握って読みました。
完全に作者の思惑に転がされていた形。そして、迎えた最後のシーン。物語の後日談が書かれ、それぞれが過去を飲み込んで、哀しみを抱えながらも前向きに生きている。それでも十分いい終わり方でしたが。
おまけのように始まる、不思議なシーン。
それが、第12巻で張られていた伏線だと気づいた時。
それが、この物語をずっと貫いていた二人のテーマだと気づいた時。
ラストシーンは、以前のシーンを重ねているのだと気づいた時。
そして、この作品のタイトル自体にSFの設定を暗示する伏線が仕込まれていた上に、最後の一文がそれを使っていた時に。
ぞくぞくと背筋を走る感動がありました。
こういうふうに感じられるお話には、そうは出会えない。
読後の満足感がとても素敵なお話でした。
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