鹿の王
鹿の王 (上橋菜穂子・著)を読みました!
この世に未練を持たぬ者たちで作られた戦士団〈独角〉。その長ヴァンは、強大な帝国、東乎瑠(ツオル)に対して故郷を守るため捨石となる絶望的な戦いへと身を投じ、捕らわれ、奴隷として岩塩鉱へと送られていた。
ある夜、鉱山を不思議な犬の集団が襲う。噛まれた人たちは数日のうちに謎の病を発病、死に至った。奴隷も監督もすべてが亡くなる中、生き残ったヴァンは、他に唯一の生き残り、幼子のユナを連れ、逃亡生活に入るのだが……。
最初のうちは、ちょっと読みづらいなーと思って読んでいたのです。こういうハイファンタジーは舞台設定も魅力ですが、僕にはそれが重荷で、情報過多な感じがあって。
それがぐいっと引き込まれたのは、第二章に入ってから。正直、ここで場面転換してキャラ増えるのか、ますます頭に入ってこないと思っていたころ。
このお話の軸になる設定、黒狼病(ミッツアル)が出てきて。
「これ、SFじゃないか?」と思い始めたからです。
細菌とかウイルスとか免疫とかワクチンとか。ファンタジー用語にはなっているけど、そういうことが語られ始め、パンデミック(感染の世界的な流行)をどう防ぐかという方に話が流れていきます。
ファンタジー然としたお話で、ここを掘り下げてくるとは思わなかった。しかも免疫系のお話を、ファンタジー用語で飾りつつ、しっかり書いてあるのです。あとがき見たら、ちゃんと医学監修入ってるし。
これはもはやサイエンスフィクションですよ。設定を謎の異世界じゃなくて、どこかよその星だということにするだけで、SFにある話ですよ。
舞台設定が重荷と言いながら、新たな設定が出てきて興味を引っ張られるのは、もう単純に僕の好みの話なんですけれど(^^;;)
最近SFとファンタジーのボーダー上の辺りがとても気になっているのです。「おいしいネタ全部盛り」みたいな感じで、ゲームとかラノベの方にはよく見かけるのですが、ファンタジーの方から、しかもハイファンタジーの形を崩さずに融合させる例は、初めて読んだかもしれない。
まず、そういう点でもとても興味深いお話でした。
そして、序盤をそんな感じで乗り越えたころには、だんだんキャラクターに感情移入し始めて。
ヴァンはどうなっちゃうのかな、幸薄そうだし最後死ぬタイプだよなとか、「ユナちゃ」(自分をそう呼ぶ)はかわいいな、幸せに育ってほしいなとか、サエさんは幸せになればいいのにとか、みんなの行く末を案じながらお話に没頭していました。
幸せという単語を連発していますけれども。
ヴァンは〈独角〉の首領。〈独角〉は、家族を亡くしているけれど後追い自殺すると宗教的に同じ天国には行けないので、死に場所を求めている死兵たちです。ユナは黒狼病でお母さんが死んでる。しかも途中で分かる、お母さんが死んでユナが生き残った理由が、またぐっと心に突き刺さる。サエはすごい追跡術を持った、諜報、捜索を得意とする一族の女性。一度不妊で結婚に失敗していて、以降ただ一族の掟に従い生きている。
みんな幸せになってほしいのですが、幸の薄さがもう全面的に漂ってて、パターン的には不幸な死に方したりするやつ。もう本当にどうなるのか。また、じわじわと話が進んでいくから、目が離せない。
最後を見るのが怖いぐらい。でも行く末を確認しなくては。そんな感じで最後は読み進めていました。とても面白かったです。満足(^^)/
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