アドバイスのお値段
このあいだ、出版サービスの解体という記事を書いたのですが。
反応を見ていて、もっときわどいところに突っ込まないと、問題提起にならないなあと思ったのです。
ちょっと加減してぼかして書いてました。ペーペーの作家が書くと、説得力ないのに嫌われるかもしれないので。
でも、中途半端に書いたって嫌われる時は嫌われるので。
突っ込んだところを書きたいと思います。
あの記事の反応を見ていたら、アドバイスをバラでサービスするとして、いくらを想定しているのだろうというものがありました。まさにそこです。
出版サービスの解体と書いたのは、あの記事にあるように、バラでサービスすることができるのではないか、ということの他に。
出版社はそこを考えないと、バラのサービスが他から出るよ、という意味もあるのです。
なぜかというと、出版社の提供しているサービスが、ものすごい高いからです。
例えば新人さんが本を出します。漫画だったり小説だったりで、本の形や値段が違ってくるのですが、初版印税は数十万円の範囲。
個人出版で同じ部数がさばけたら、最大印税70%なので、そこの差額が出版社の広める力を含めた、出版サービスのお値段です。電子書籍の方が安いこととかも考えてちょっと計算してみましたが、それでも百ウン十万円からになりそうです。
ちなみにこれはド新人の話なので、ちゃんと売れる作家さんの場合は当然桁が上がります。ベストセラー作家なら、億の単位に行きますね。
さて、これは今まで意識されたことがありませんでした。出版社を通してしか出版できなかったので、それがサービスだなんて誰も考えていなかったからです。
でも、選択できるようになったら?
サービスを受ける作家の側から考えてみましょう。ここで問題になるのは、特に編集の部分です。
出版社の中抜きが話題になった時、編集が作品の質を高めるから必要なんだという論が出ました。多分編集さんは、ここを自分の仕事の中核と考えているのではないかと思います。
でも、作家はほんとは聞きたくないんですよ。だって、批評されて注文されても、嬉しくないじゃん? これが大前提。
さて、ここでお値段の問題に突っ込みます。このあいだの記事で書いた通り、すでに似たサービスとして、小説の場合、創作教室があったりします。期間とか形式がいろいろありますが、数万円の単位。一回あたりだと、数千円。
アドバイスということで近い業種を考えると、弁護士さんに相談すると、30分5000円とかですよね。
これを高いと見るか、安いと見るか。
前述の通り、本質的に人間は嫌なことなんて聞きたくないので、「これは苦いがよく効く薬だ」と納得させる必要があります。小説講座は、「プロになれるよ」という誘い文句が薬効です。小説講座で検索すると結構出てくるので、この薬を求めている人は結構いるようです。
でも、効かない薬だったら、嫌ですよね?
別の例えをすると、学校の先生が授業が下手だとクレームが来るかもしれませんが、塾の先生だとクレームが来た上に退塾してしまう、ということです。授業も、ほんとは聞きたくないのを、勉強の効果があると思って受けてるのです。
出版サービス一括のお値段は百ウン十万から時には億の単位。特に電子書籍が当たり前になった時、それだけの価値を生み続けられるでしょうか。
反例が、先行するアメリカで見られる「個人に戻るプロ作家」です。嫌な思いして、かつ結局自分の知名度で売ってるとなれば、他の選択が出る。
小説講座は「プロになれる」が誘い文句ですが、アメリカのように個人出版でベストセラーが出るようになった時、その誘い文句は有効なのでしょうか。
そもそも好きに書いて売れる人がいるのです。そこにお金を使う価値はあるでしょうか。
そう考えていくと、個人出版のプラットフォーム側が、サービスをばらして一つ一つ取り込んでいく、ということがあるんじゃないか。
そしてその時、アドバイスのサービスが一番人気無い。お高いんじゃないかという意見があるように。そんな結論になります。
じゃあなんで需要がありそうと書いたのかというと、僕自身の意見としては、必要性があると思うからなのです。
アドバイスは必要です。苦くても薬効がある。
きつい批評が出て、それを乗り越えようと限界まで知恵を絞った時に、人間は殻を破れる。「これ、ほんとに自分で描いたの?」というぐらいレベルが上がる瞬間を、僕は体験しました。
だから僕は人に見せるようにしています。必ずしも望んだ答が返ってくるとは限りません。死角からがつんと殴られるようなことも起きます。でも必要なのです。
ところがそもそも聞きたくないので、それを避けているなあという人が見受けられます。批評なんか聞きたくない。自己承認欲求だけ満たして欲しい。
そんな形で個人出版が広まったら、書く人ばかりで読者がいなくなる。読者は作家を気分よくさせるボランティアじゃないんだ。
見知らぬ人に読ませるなら、苦い思いをしてでもアドバイスを受け、質を高める努力は絶対必要。それが礼儀ってもんですよ。
さらにその時、アドバイスの質が問題です。効かない薬はいらないんです。
プロの編集さんは、今まで情報の関所にいたので、自分の言い値でアドバイスを売れましたが、それはできなくなる可能性がある。高くても苦くても薬効があると見せ付ける必要があります。
個人でも質のいいアドバイスが聞けて、個人出版全体の質が上がることも重要。自己承認を求める外ればっかりつかまされたら、当たりにたどり着く前に、そこから人が立ち去ってしまう。
ネット上ではいろいろなコンテンツが競合しています。電子書籍がその中で価値を持つためには、作る人間の志が重要です。
ということで。
アドバイスの質が、それ単品のサービスでも買ってもらえるぐらい高まり、また受ける側も、そこでがんばるのが当然のことという認識が生まれて、バラのサービスが普通に成り立つようになるといいなあと思っているのです。
さらに、出版社の一括サービスの中に含まれる広める力がとても重要だと思っているのですが、そこはまだ研究中なので、前回書いた以上のことは思いついていません。こちらはまた今度。
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