狼と香辛料 ⅩⅤ ⅩⅥ 太陽の金貨
狼と香辛料 ⅩⅤ ⅩⅥ 太陽の金貨 (支倉凍砂・著)を読みました!
最後の大きなエピソード。上下巻でたっぷり書かれ、一つ謎が解ければ次の展開と、お話は二転三転。面白かったです!
というわけで、以下感想。
まずはあらすじ。
ホロの昔の仲間の名前をつけたミューリ傭兵団。彼らに会うため、ロレンスたちはレスコの街を訪れた。その街は鉱物商デバウ商会が作った街。今デバウ商会は傭兵などの戦力をかき集め、北の地域の侵略を狙っているという黒い噂があった。
しかし、訪れたレスコの街は、想像とは全く違っていた。人々は明るく活気に満ち溢れ、何よりデバウ商会はそういう魅力のある街づくりに注力しているように見えた。デバウ商会の真意をいぶかしむロレンスだったが……。
本編最後ということで、アイディアも大きなもの。これはいわゆる、基軸通貨というやつですよね。
かつアイディアは一つではなく、そこから畳み掛けるような展開に。
お金によって世界が変わる様を、まずいい面から見せて、そしてよくない面からも見せて。
上手くいくのかと思わせて、土壇場でひっくり返り絶体絶命に陥る、手に汗握るハラハラ展開でした。
特に傭兵の誇りが、お金の前に砕けていく様は印象に残りました。
さて全体をふまえた感想も。
16巻のあとがきにこうありました。
ライトノベルジャンルで経済の話、というとデビュー当時は珍しいなんてよく言われました。
しかも、ファンタジーなのに剣や魔法が出てこない。
根があまのじゃくというところもありますが、これは単純な考えの帰結です。
つまり、貴族や王様、騎士や魔法使い、魔王と勇者、なんて設定は、古くから山ほどの人が挑戦されていて、大御所の方の古典がいくらでもあります。そこに私が割り込んで、果たして勝負に勝てるものかと。学園物を書かなかったのも、同じ理由です。
狙って主流を外していることに、とても共感します。
手堅く主流に沿った物を書いた時、使う側はリスクを減らせるメリットがあるけれど、使われる側にはないのです。
そういう戦略を取った時、使う側は大外れしないようにしながら、天才が来るまで駒を取り替え続ければいい。でも、使われる側は自分を取り替えるなんてできないんだから、自分の能力でいかに生き残るか考えなきゃいけない。
取替えの利く駒のままではだめだ。他人を上回れる、得意なところから攻めないと。
そういう風に普段から思っているので、支倉先生はすごいなあと感心しながら読んでいました。
剣も魔法もないファンタジーで、商戦がテーマ。でも、変り種というだけでは、最初は目立てるけれどなじみのない話で読者がついてこないから、そこで上手く要点を伝えて、駆け引きの緊張感を書き切る腕が必要です。
僕はどっちかと言えば科学畑で、経済の話は聞きかじり程度。それでこれだけすっきり読めるんだから、ほんとにすごい。
そして、単に設定だけではなく、ライトノベルの型を破っているのもすごいなと。
ライトノベルというジャンルの定義も難しいんですが。中高生向けといいながら大人も読んでるし、中高生向けならヤングアダルトってジャンルもあり。
そういうなんとなくのイメージで出来てるジャンルだけれど、キーワードとしては中二病的というのはあると思うんですよ。根拠のない全能感。
ところがロレンスは、シリーズの途中、街商人が出てきた辺りから、さらっと自分の限界を悟ります。限界を分かって卑屈になるわけでもなく、そういうもんだと割り切っちゃう。これは大人の考え方です。中二病的な発想とは真逆。
かわいい女の子というライトノベルの文脈を使い、その中で成立しているように見せながら、でも実はアイディアも主人公の振る舞いもそこに納まらない。全く独自の物語をつづった。
すごい作品だと思います。
さて、本編は終わりましたが、まだエピローグが。きっとベタ甘に違いない! 楽しみです(^^)/
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