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2012/08/29

RDG 5 レッドデータガール 学園の一番長い日

RDG 5 レッドデータガール 学園の一番長い日(荻原規子・著)を読みました!

じっくりじっくり進んでいるのを楽しみながら、こうなったらいいなと思っていた期待通りの展開。そして期待以上の出来栄え。

面白かったです!

ということで以下感想。

じっくり伏線張ってあって、それが花開く瞬間は楽しい。そういうお話が大好きなのです。じっくり肥やしを与えているので、きれいな大輪の花が咲くから。

しかもこの話では、別々に育っていた三つの要素がきれいに絡んで、さらに大きく花開いています。

まず一つ目は、ファンタジーとしてのお話の筋。

戦国学園祭が開催され、陰陽師派が仕掛けてきます。学園全体に張り巡らされた結界。泉水子にもかけられた術。

その中で己の力に目覚める泉水子。あいまいにぼかされていた姫神との関係がはっきりと。

もう一つが泉水子の成長物語。極度の引っ込み思案だった泉水子が、せめて普通の女の子になりたいとじたばたする様子が書かれてきました。

少しずつ積極的になって、結果思わぬところで人気が出たり。

最後が泉水子と深行の関係。最初の出会いが最悪とか、泉水子が気づかないうちに深行の中で泉水子の心象が変わっていたりとか、王道展開が素敵だと思っていたのです。

それぞれが進んでいくのも、面白く読んでいたのですが。

この三つが、山場のシーンで、全部きれいに絡まってた。相乗効果を生み出していて、すごく説得力のあるシーンになっていました。

姫神の力で殻に閉じこもってしまう泉水子。それは臆病で引っ込み思案の自分が引き起こしてしまった事態。

「殻に閉じこもる」という心の中の動きを表した比喩が、実際の事件として起きています。

そして、自分に自信がなくて引っ込み思案だった泉水子が、自分の殻を破って、身の回りの世界に踏み出していくこととが、深行との関係に象徴されています。

それまでも、勇気を出して自分の気持ちを伝えなきゃとか、小さなことだけれど泉水子にとっては大きな挑戦として、エピソードが積み重ねられていましたが。

閉じこもった世界から出たいと思ったとき、携帯電話(これも今まで使えなかった、一般社会からの隔絶の象徴)で深行を呼ぶところは、全てが一つに集約するとてもいいシーンでした。

こういう山場が心に響くんですよね。素晴らしいです。

そして、もう一つ響いたのは。

言葉でつづる小説だからこそ、直接的な言葉の外の意味が伝わってくると楽しいのです。

まず、携帯電話の呼び出し音がトトロ。設定したのは深行。自分が小さい時から見ていた大好きな映画のテーマソング。キャラクターに似合わない意外性と、それを使ったということで表されている好意。

それを聞いた泉水子が、小さい深行を想像して、そのギャップに笑いが止まらなくなるところは、この巻の冒頭で、深行が泉水子のお団子頭を見て、その髪型で姫神が降臨するところを想像してギャップに笑が止まらなくなったシーンと、対をなしています。これも関係が深まったことを表すエピソード。

そして、こういう微笑ましいエピソードで一度雰囲気を緩めておいてからの、決め台詞が引き立ちます。

「お前さ……おれが必要だって、言えよ」とか「言えたらいいけど、言ったら最後だよ……」とか、はっきり言い切ってないけど、もう言ったも同然。むしろはっきり言わないから際立つ。男の僕がすごいなと思うぐらいだから、こういうのが好きな女の人にはたまらないのではないだろうか、と思いました。

腕の立つ作家さんがつづる素敵な物語は、ほんとに楽しい。次も楽しみです。

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