月の森に、カミよ眠れ
月の森に、カミよ眠れ 上橋菜穂子
険しい山間の小さなムラ。そこにカミと人の子であるナガタチは、その山のカミを殺すために招かれた。
そのムラでナガタチは、ムラの巫女カミンマたるキシメ、そして自分と同じようにカミと人の子であるタヤタと出会う。ヒトとカミの狭間で絡み合う、三人の運命は……。
上橋先生の二作目。この作品はファンタジー。
ファンタジーの中でも、現実の歴史に基づいた、骨太な作品になっています。古代日本で国家が統一されていく頃、当時の人たちの自然観をモチーフにした設定です。
僕もちょうど資料読みしてて、昔の人のカミとオニの概念について書かれた本を何冊か読んだところだったのですよ。
日本に限らず狩猟採集の文化の頃は、自然の恵みを分けてもらう感覚なので、そこに神様が住んでると考え、採り過ぎはやめようとか謙虚な姿勢になるのですが。
農耕が盛んになると森を切り開いて耕地を広げるために、自然は屈服させる対象になり、日本各地に、カミの化身をやっつけて土地を開き、代わりに神様を祭り上げて封じるお話が残っているのだそうです。
そういう世界観がすごくしっかりしたお話です。
ファンタジーでもSFでも、空想物語の場合、それを読んで得た知識で作品が書かれていて、知識の大元へはアプローチしていないことがあるのですが。
そうなるとどうしても、世界観に頼りなさが出てしまう。「精霊の木」のSFの部分は、ちょっとそういう感じがありました。
が、こちらは上橋先生の専門分野です。人が自然をどう捉えてきたかというのは、まさに文化人類学の範疇。そこをもとに作られた世界観にゆるぎはなく、がっちり骨太です。
「自然と人間」は「精霊の守り人」でも「獣の奏者」でも作品のテーマの一つとして入ってますが、この作品はそれがメインテーマで。
昔の人はきっと、その土地の神様を本気で信じていたし、祟りがあると本気で恐れていた。そこがしっかり書かれているので、カミとヒトの間に挟まれた三人の気持ちにも、本気を感じて引っ張り込まれるお話でした。
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