精霊の木
精霊の木 上橋菜穂子
環境破壊によって地球が人の住めない星になり、人類が広く他の恒星系に移住するようになった未来。そのうちの一つ、惑星ナイラにはロシュナールという先住民が住んでいたが、人類の移住後ほどなく死に絶えていた。
ただ、死に絶えたと思われたロシュナールの血筋は、混血して人類の中に残っていた。もうすぐ15歳の少女リシアは、精霊の力を借りて生きていたロシュナールの「時の夢見師」の力に目覚めて……。
「獣の奏者」「精霊の守り人」と楽しく読めたので、上橋先生の残りの本も全部読んでみようと、まずデビュー作へ。
びっくり。SFだった。
ただ、読んでほどなくして、ああこれは、時代的にSFの形になってるけど、自分の得意テーマで書いてるんだなと分かります。
インディアンのような、西洋からの侵略者に蹂躙された先住民の姿が、ロシュナールに投影されている。
上橋先生は文化人類学の先生でもあって、オーストラリア先住民アボリジニについて書いた著作もあります。
この本は新版なので、あとがきで当時を振り返っています。このデビュー作を書いたときは大学院の学生だったそう。自分の興味がきちんと反映されてて、こうなってるんだなと思いました。
そういう所で学んだ、いにしえからの人間と自然との関係が、このあとのファンタジー作品ではもっとストレートに出るようになってる。そんな流れ。
さらにあとがきには「デビュー作にはその作家のすべての萌芽がつまっている」とあります。
確かにその通り、初々しく、もちっとゆったり書いてもいいのではないかと思うぐらい勢いにあふれた作品ですが、キャラクターを見る視線とか、運命に抗う一生懸命な姿勢とか、その後に通じる面白さはここにもちゃんとあって、楽しく読めました。
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