先週の雑感記 宇宙戦艦ヤマト
カットの仕事中です。
ちっちゃいカットって、思いのほか大変。仕上げあとちょっと。
さて今日の話題は、宇宙戦艦ヤマトのリメイクのニュースを知って考えたこと。来年4月、劇場版アニメが公開されるようです。
ヤマトがまたやると聞いて考えた。大当たりした物語は、時代背景を取り込んだ要素を持ってる。ヤマトは明らかに、米ソ冷戦構造を取り込んでいる。実態のよく分からない帝国に、ばかすか爆弾を落とされて全滅するかもしれない恐怖。米ソ全面核戦争の構図。
フィクションの設定に、ちょびっと現実を連想させる要素があると、説得力が生まれる。第三次世界大戦設定の物語は当時けっこうあったけど、その中でもヤマトはそれを見事に表現していて、それが「宇宙戦艦かっこいいー!」以上の広がりを生んだんだと思う。
まず遊星爆弾。いつ飛んでくるか分からない核ミサイルの恐怖を表している。小惑星を落として文明を破壊するのはありとして、核爆発じゃないので、あんな放射能汚染はホントはないはずだ。なくても文明は破壊できるし。でも地下都市までじわじわ汚染されてくのが、とても怖かったのだ。
「地球滅亡の日まであと○○日」は、地球終末時計だ。全面核戦争が起きて人類が滅亡する危険性を時計になぞらえて表した。ちなみにヤマトが作られた1974年は23時51分。一度巻き戻ったんだけど核拡散が起きてちょっと進んだころ。
僕らは全面核戦争の恐怖を刷り込まれ、大気圏内核実験の放射性物質を浴びて育ったので、放射能除去装置をもらいにイスカンダルへ行くヤマトは、現実のヒーローだったのだ。あの話、ガミラスやっつけるの結果論なんだよね。たまたまイスカンダルのとなりにあったの。
もしあの話が、放射能関係なくて、昔の戦艦掘り起こして単艦ガミラスをやっつけに行く、伊四〇一の焼き直しみたいな話だったら、軍事オタクでSF者の人にしか受けなかったかもしれない。身近なリアリティないから、他の人には取っ掛かりがない。
銀河鉄道999は行過ぎた文明への批判だし、松本零士先生の二大ヒットは、SFのかっこよさと現実的なテーマを上手く結び付けてる。大勢の人を引き付けるためには大切なこと。かっこよさがコアなファンをまず呼んで、現実に通じるリアリティがその騒ぎに興味を持って覗きに来た他の人を引き止める。
なので僕は、ただ焼き直せば昔のファンが見てくれるだろうみたいな気骨のない作品は嫌いなのです。スタートレックみたいに、そこを取っ掛かりに新しいテーマで面白く作ってくれると好き。さあ今回はどうなるか。放射能は現代的なテーマに戻ったからなあ。11/11/10
補足解説。
世界終末時計は、「滅亡まであと何分」という形で、核戦争勃発の危険度を表していました。午前零時が滅亡の瞬間だったのです。最悪だったのが1953年の「滅亡まであと2分」。次が1984年の「あと3分」。
1989年からは核戦争の危険だけではなく、気候変動などの要素も評価するようになったのだそうで。逆に言えば、そのころにはペレストロイカが起きて米ソ間の緊張は和らいでいて、「人類滅亡といえば核戦争」じゃなくなったのです。
伊四〇一は、第二次大戦時の日本の潜水艦。翼を折りたたんだ攻撃機を三機積めました。アメリカ本土に攻撃を仕掛けるべく出航、途中で終戦。
今考えれば、攻撃機三機ではどうにもならないと思うのですが、潜水空母が日本にあったと知った当時小学生の僕は、かなりときめきました。「軍事オタクでSF者」は、僕のことです(笑)。
さてそしてテーマの話。
別に大上段に構えたテーマがいるという話ではないのです。それよりも力点は「取っ掛かり」の方。フィクションだけどなんかホントにありそうとか、フィクションだけど何か思い当たるなーとか、作り話以上だと感じてもらえる部分。
大上段ということで言うとむしろ、ヤマトは「愛がどうたら」という押しが強くなった辺りから、あまり面白くなくなったという感想。自己陶酔がひどくなって、気配りがなくなった。
最近僕が見た中で、うまい取っ掛かりを作ったなーと思ったのは、例えば「図書館戦争」です。
有川先生は初期作品から、けっこうミリタリーなネタを使っています。でも、軍事ネタ×SFネタだと、やっぱり好きじゃない人は突き放してしまう。それが一般書として大当たりした図書館戦争では。
検閲とか自主規制とか、今でも起きていることを設定に絡めた。だから、ああ、ありそうだなーと感じながら読める。子供に良書をと騒ぐPTAと国家権力なんて、この間あったしね。
さらに、「私の王子様」みたいな、もっと身近に感じられる話も、並行して走っている。
大勢の人に見てもらうには、そういう取っ掛かりが大切だよなと思うのです。
あと最初のヤマトのやってたあの時代は宇宙探査が盛んだったので、宇宙自体も取っ掛かりになれたんですよね。
僕はアポロの時は赤ちゃんだったので記憶ないですが、バイキング1号の送ってきた火星の赤い空の写真が新聞の一面に載ったりしてて、すごいわくわくしてたのです。パイオニアとかボイジャーとか、初めて見る映像がどんどん来た。SFにはいい時代だった。
でも考えてみたら宇宙も、はやぶさだったり、国際宇宙ステーションだったり、一時期よりはぐっと身近なものになってきてるので。
上手く描けばまた取っ掛かりになるのかもしれないと、SF者としては期待したいですね。また宇宙SFのブームが来たらいいのになー。
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コメント
私の王子様・・・昔の、いや今もですが、少女マンガの王道的な話ですね・・・今日あさイチでエア恋愛ってやっていましたんで(いわゆる芸能人、職場や近所のかっこいい男子、アニメ、ゲーム等のキャラとの妄想、でもこれが原因で生活破綻や離婚になった人がいるそうです。私だったらちょっと妄想はするがすぐに現実に引き戻されてますがね(笑)
奈緒子先生ガンバレー\(^0^)/
投稿: みゅー | 2011/11/14 21:15
妄想は創作の母なので、対象を「○○さん」から「○○さんみたいな人」に置き換えて吐き出せば、立派な恋愛物が一本できるのに、惜しい方に向かっちゃってますね。>エア恋愛
投稿: かわせ | 2011/11/15 14:55