今週の雑感記 守り人のすべてと金融危機
カットの仕事は仕上げ終わって提出して、特に問題なく無事受け取ってもらえたようで一安心。
本日はまず、この間の感想で触れた、「「守り人」のすべて」を読んで考えたことから。
守り人のすべて。
本編を読み、外伝も読み、でもまだ短編載ってる本があるよと教えてもらって、手に取った本。
お目当ての短編をまず読んで、さて、他の記事も読んでみるかとめくってみると、けっこう面白くて、いろいろ考えさせられたのです。
その中から、まず上橋先生の一文から。
この物語の草稿を担当の編集者さんに見せたとき、「あのね、児童文学って、子供が主人公に心を乗せていける物語なのよ。子供のお母さんみたいな年代の女を主人公にして、どーする!」と怒られましたが、私にとっては、主人公のバルサは、どうしても三十歳以上でなくては、ならなかったのです。
p8より
「怒られた」が冗談めかして書いてあるのか、逆にがっちり反対されたのを柔らかく書いてるのか、そこは分かんないのですが。
どこでもある話なんだなーと。これ、落とし穴があると思うんですよね。
児童文学が子供主人公の方がいいのは確かだと思います。児童漫画もそう。少年漫画は少年が主人公の方がいいし、青年漫画は大人が主人公の方がいい。
読者と立場が近い方が、想像させたり共感させたりするのが楽だからです。
年齢だけじゃなくて舞台設定もそうだったりします。離れれば離れるほど難しくなり、上手く伝えられないリスクが高まる。
だからそのリスクを念頭に置くのはいいとして。
ただ「不利」と「してはいけない」は違うと思うんですよ。
「こういうものだから、こうしちゃいけない」だと、チャレンジがなくなって、どんどん狭くなっていっちゃう。
こだわってないところなら別にリスクをとる必要はないけど、それを書く意義を感じているのなら、あえてリスクをとる気概が、作品にエネルギーを注入するのではないでしょうか。
上橋先生はリスクを取る胆力と筆力があるから、これだけのものを書けてるんだなあと思いました。
自分の場合は筆力が問題。
さてこの本の記事の中で一番興味深かったのは、英語版の翻訳をした平野キャシーさんと上橋先生の講演録でした。
その中に、アメリカでもかーと思った一文が。
上橋 『精霊の守り人』の最初のページに、主人公のバルサが三十歳だと書いてあります。日本では、私の本の読者層は幅広いので、さして問題にならないのですけど、翻訳にあたってキャシーさんから「アメリカの編集者は、主人公の年齢が二十代以上になるとヤングアダルトでなくなるので困るといってきますよ」といわれてびっくり。アメリカで新しい児童文学が出るときは、強力な推薦者たちがあらかじめテスト版を読み、その人たちが推薦してくれることが大切なのだそうです。ところが、その人たちが最初に主人公の年齢で引っかかると続きを読まないのでストーリーの評価をしてくれないというわけなんです。
p98
「○○でなければならない」式の障害がここにも。
アメリカの方が大変そうだなと思ったのが、推薦者の部分。児童文学だけなのか、他のジャンルもそうなのか分からないけど、多分この人たちは、専従じゃないと思われ。
それでご飯食べてるわけじゃないから、「読まない理由」を探しているんですよね。メンドクサイから。
ちなみにこれは僕が今いきなり思いついたことじゃなくて、以前向こうの編集者が書いた小説の書き方の本を読んだ時に書いてあったのです。
投稿してくる新人の小説なんてメンドクサイから、読まない理由を探しながら読んでる。一つでも見つけたら、喜んで読むのをやめる。だから原稿に傷があってはいけないと、細かい作法について逐一指南してありました。
これ目的の主従が逆転してると思うのです。面白い作品を発見するのが目的で、すると全体を読んで面白いかが一番だから、細かいことはそれに影響しているかどうかで、直したり直さなかったりすればいいはずで。
まあ確かに、漫画の持ち込みは短編だから目の前ですぐ読める長さだけど、小説一巻分は何時間もかかるので大変だというのはありますが。
こういう姿勢だと、当然「荒削りな才能」は取りこぼすわけで、それをキンドルの個人出版に拾われているんだと思います。
平野 アメリカでは、すでに充分、よい児童文学はあるので、外国語、とくに、実際に編集者などが読んで判断することが難しい日本語などの作品をわざわざ翻訳・出版する必要はない、と思われているのです。
p95
文化って優劣つけるものじゃないけど、でも経済力の高いところから低いところへ流れていく傾向が。アメリカ→日本→アジアみたいな。
でも逆に日本はチャンスあるんじゃないかと思うのです。日本はこれとはまた別に、アジアの端っこに昔から位置しているため、外のものを取り込んで自分のものにしてしまう文化があって。
つまりアメリカの作家はアメリカ人とだけ競争しているけど、日本の作家は外国のベストセラーとも戦ってるわけで、その分鍛えられている。
注文待ちの姿勢じゃなくて、どんどんこっちから翻訳してもいいんじゃないでしょうか。体力的に大変なら、何社か集まってでも。
韓流のアグレッシブな姿勢は見習うべきだと思います。
上橋 アメリカでは児童文学の枠が日本よりきっちりしているようで、学校関係者がこの本を図書館に置くか、置かないか、とネットで評価していたりするのもおもしろかったですね。「この本には少し暴力描写がある。少しラブ・アフェアー(love affair)が入っている」などとあり、そんなふうにチェック項目があるような書き方をしているのが、ある意味意外であり、興味深かったです。
平野 そうですねぇ。そういうチェックはかなり意識的になされてますよね。バルサの「くそっ」という言葉を、できるだけ悪くない言葉を選んだつもりで「ダム(damn)」と訳したんですが、編集者からは、「ダム(damn)という言葉を入れると、アメリカでは学校で置かれない可能性があるので、気をつけるように」といわれたりしました。でもその言葉はかなり後に出てきたので、実は残っています。(会場 笑)
p108
アメリカは、本やテレビでなるべく子供たちが有害情報に接しないようにと、けっこう表現規制を入れているのに、暴力的な犯罪があとを絶たず。
そういうのが氾濫していると非難される日本が、近年は少ないという。
社会学の研究でもそういうのがあって、要するに表現規制するよりやんなきゃいけないことがあるんだということですね。
だから都の条例に反対したのです。
ちなみに、でもTVを見てると犯罪多いじゃないかと思った人は、マスコミにコントロールされています。事件がニュースにしやすいから取り上げているだけで、数は減ってるのです。警察利権の温床にもなっている、由々しき問題です。
でも、先の社会学の話で言うと、犯罪の大きな原因は貧困なので、格差が開いて貧困層が増えていくこれからの世の中では、ホントに増加してくかも。そっちの方がまずいと思うんですよ。
格差はグローバリズムの必然の結果。でも鎖国は全員負け組になる悪手。どうなるんでしょうかねえ。
と、どんどん話がそれていったところで、次の話題につなげます。そんな世界経済の話から、でもやっぱり創作につながる話。
金融危機。
クローズアップ現代。世界金融危機は防げるか。イタリアまで来てるんだから、日本だって明日は我が身。
こういうニュースを熱心に追っているのだから、漫画に生かせばいいのにと周りの人にずっと言われているのだけれど、絵柄とのミスマッチがあってイメージつかめずにいた。最近ちょっと見えてきたところ。11/11/14
日本の国債は国内でまかなえているから大丈夫と言われているけれど、団塊世代が定年退職したら預貯金は減っていくわけで、いつか外資のお世話になるはず。
中国はバブルの香りがするうえに、地方の統計は中央にいい顔するために捏造されていて実態が分からないので、やばいような気がする。
そんなことを書いてる記事を追っていると、やばそうな年として2013年がちょくちょく出てくるのが怖いなあと思っているのです。
こんな調子で仕事場で解説係なので、漫画に生かせばいいのにと言われているわけですが。
売り物になるレベルとなると難しいですよね。
難しめのニュースを追ってても、勉強したわけじゃなくてニュースを追ってるだけの耳学問だし。ちゃんと詳しい人がごまんといるわけで。
身近にしゃべってる分にはいいけども世間に出すほどだろうか、絵柄も合わないし滑ったものになるんじゃないかなと、二の足踏んでいたのです。
最近は作家さんが自らツイッターとかで情報発信しているので、普段何見て何考えているかも分かるようになって。そういうのを見ていると、なんか自分程度の知識では、売るには弱いような気がちょくちょくします。
SFも最先端は無理だと思う。ついていってないし。
しかし、ストレートなうんちくものは半端な知識だとかっこ悪いですが、一つ一つが足りないのなら、いろんなものと全部掛けて相乗効果を狙う、という手があり。
現在はミスマッチなはずの絵柄とネタを、上手くかみ合わせて楽しい漫画にしてしまうポイントを探索中です。
少しずつ手ごたえ。当るかどうかはともかく(笑)。
ということで、カットの仕事を終わらせた後、コミティア用の次のネームとその次のシナリオ作った今週なのでした。
| 固定リンク
「日記・つぶやき2011」カテゴリの記事
- 今週の雑感記 取りこぼし(2011.12.24)
- 今週の雑感記 贅肉をそぎ落とす(2011.12.18)
- 今週の雑感記 小惑星探査機はやぶさの危機と科学の応用(2011.12.11)
- クラブワールドカップと最終回(2011.12.10)
- 2011年のかわせひろし(2011.12.31)
コメント