天と地の守り人
天と地の守り人 上橋菜穂子
タルシュ帝国の侵攻に備え、鎖国をした新ヨゴ皇国。突然の通告は国の内外に故郷に帰れない人たちを生み出した。バルサはそんな人たちの国境越えを手伝っていた。
それは気を紛らわせて、海に落ちて死んだチャグムのことを考えずにすむということでもあった。ところがそのバルサのもとに、チャグムは生きているという手紙が届き……。
仕事の行き返りで蒼路の旅人を読み終えた僕は、しかし思ったのです。すぐに続きを読みたいけれど、自分の原稿があるから、ちょっとずつにしよう。
ご飯時とかトイレ入ったときとか、ちょっとずつ。
でもそれは一日持たなかった。作業を終えて寝る前に、歯を磨きながらちょっと読むかなーと思ったのが運のつき。第一部の途中からもう止まらなくなって、すっかり夜が明け日が昇るまで、一気に三冊全部読み終えました。
面白かったー。
よく僕はじっくり型の物語が好きだと言ってますけど、こういうことなんですよね。本編十巻あって、六巻目まではこの世界の不思議を題材にした物語。で、その間にキャラクターが育ってて、これからの事件の伏線も張ってある。
六巻までの一つ一つのお話も面白い上に、そうやって読者との関係がしっかり出来ているキャラクターが、世界を揺るがす大きな事件に巻き込まれていくと、もう目が離せないのですよ。寝るのを忘れるほど。
シリーズ全体の感想を書くと。
まずチャグムの成長物語として面白かったです。
精霊の卵を抱いてバルサと出会って、宮廷の外の暮らしを知ったチャグム。自分の生まれから来る不自由さに気付いて、それを疎ましく思いながら、戻れない暮らしに思いをはせていた。
でも、生まれから来る責任を自覚すると、そこから逃げずに、さらに理想も捨てずに、現実と向かい合って戦う。
もうめっちゃ燃える展開ですよ。今までの帝は伝説に支えられてたけど、チャグムは自ら伝説となったんですよ。
そしてバルサの話としても面白かった。
バルサは凄腕の用心棒で、世間の薄暗い側面をよく知っている、一見冷徹なキャラクターの設定ですが。
それでいて、子供が困ってると捨て置けずにすかさず助けたり、敵と戦っても無駄にとどめは刺さなかったり、情に厚いところも見せていて。
そのさじ加減が抜群。すごくいいキャラ。
生い立ちのせいでこういう暮らしだけど、でも幸せになってもいいのになと、そういう相反する二面性が際立っていました。
人はけっこう生き方選べなくて、その中で生きていくしかないんだよという物語にずっと流れてるテーマに対して、チャグムは己の力で人生切り開く立身出世の物語だったけれど。
バルサはそれに流されながら生きてる。でもその中にも幸せはあるかもしれない。より大人味の物語。
キャラクターは立ってて、舞台に魅力があり、そこで物語がていねいにつづられ、かつ最後にはすんごいクライマックスが来るという、もうなんか僕の理想ですというお話でした。
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コメント
図書館で並んでいるのを見ました。獣の奏者と共にNHKでアニメやってましたね。漫画も連載、読んでました。
原作、読んでみます!
シェルクンチク、終わってさびしいですし・・・
投稿: サツキ | 2011/10/20 21:20
エリンはチラッとアニメ見たけど、他は未見なのです。
漫画は藤原カムイ先生ですね。作風的には原作読むと、ちょっと印象違うかもしれないです。
上橋先生の作風は、厳しい状況に追い込んでおきながら、キャラクターを慈しむ視点があって、それがすごく切なかったりしていいのです。おすすめです(^^)/
さてそろそろ最終回買ってきますよー……。
投稿: かわせ | 2011/10/21 04:02
ものすごーく面白かったです。
私は思春期男子の母親なので
母親目線でチャグムの成長物語として
大人目線でバルサの再生と生き様の物語として
強く強く感情移入しました。
あと、ヒュウゴ。
ああいうキャラクターを作るバランス感覚の良さが
すばらしいよね。
シリーズを読んでいた時は至福の一週間でした。
投稿: まきまき | 2011/10/24 19:01
没頭できるぐらい面白い話って、読んでてほんとに幸せだよね。
上橋先生のキャラクター造形はけっこう好みです(^^)/
投稿: かわせ | 2011/10/25 14:10