獣の奏者 Ⅳ 完結編
獣の奏者 Ⅳ 完結編 (上橋菜穂子 講談社)
真王セィミヤの命を受け、王獣を訓練し、戦闘部隊を作り上げようとするエリン。訓練は順調に進み、王獣の隠された能力も分かってきた。だが、そうなればなるほど、歴史に埋もれた過去が気にかかる。
なぜ王獣と闘蛇の戦いで、国が滅ぶほどの厄災が発生したのか。それがまた起きるのなら、我が身で受け止めなければとエリンは思う。そのころ、その母の想いを偶然知ってしまった息子、ジェシは……。
読み終わりました。
面白かったー。
最後まで手加減なしだったなあ。
ちょっとネタばれありの感想は、本の画像の下に。
上橋先生はあとがきで、キュリー夫人をエリンのモデルに挙げていました。好奇心に導かれ、真実を探求する人物像。
そしてエリンもキュリー夫人と同じく、真実の探求の果てに殉じてしまいました。
キュリー夫人は放射線を研究してノーベル賞を二度もとりましたが、長年放射性物質を取り扱っていたため、被曝の影響と思われる病気で亡くなっています。初期の放射線研究者には、同様の亡くなりかたをした人が多いようです。
大量の放射線被曝が健康によくないと分かったのは、後のことだからです。
でも少量の放射線は、人類の役に立っています。レントゲンやCT検査が、どれほど医療の役に立っているか。この身体の中を見る装置がなかったら、どれだけの人が死んでいるか。
知るということが、いかに大切か。エリンはそれをずっと貫きました。人々が無知のままに置かれた状況。それを否定し、王獣や闘蛇の秘密を再発見しました。
そしてその知をつなげて広めていくことを大切に思っていました。確かにエリンの発見は、喜ばしいものではなかった。けれどそれが、世の中を変えるきっかけになった。
「人は群れで生きる獣だ。群れをつくっているひとりひとりが、自分がなにをしているのかを知り、考えないかぎり、大きな変化は生まれない。かつて、木漏れ日のあたる森の中で母が言っていたように、多くの人の手に松明を手渡し、ひろげていくことでしか、変えられないことがあるのだ」
そうしてその思いは、息子のジェシへと受け継がれたのでした。
あとがきを読むと、どうやら最初の構想では二巻で終わりだったようです。確かに二巻の終わり方は、とてもきれいにまとまっている。アニメ化とともに続編を書くことになったようですが。
それが蛇足に終わっていないのは、エリンというキャラクターに、こういうどっしりとしたテーマが貫かれているからだと思います。
すごいお話でした。傑作。
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コメント
あれだけ人気のあった作品の続編で
ここまで手加減無しかと。
登場人物もみんな好きです。
登場人物に入れ込むと
読みながら
幸せになってほしいと
胸が痛くなるほど思います。
そういう作品でした。
投稿: まきまき | 2011/06/30 13:22
「人気があって、終わったはずのものを続編」は、書く方としてはなかなかハードル高いと思うんだけど、そこで世界とキャラクターをより掘り下げて終わるなんてすごいですよ。
そして外伝が楽しみ(^^)/ 今36人待ち。
投稿: かわせ | 2011/07/01 01:01