獣の奏者 Ⅱ王獣編
獣の奏者 Ⅱ王獣編 (上橋菜穂子 講談社)
傷ついた王獣の子、リランの世話をするエリン。人に傷つけられたリランはおびえ、えさを食べようとせず、弱っていく。野生の王獣の母子の様子から、エリンは母親の鳴き声を竪琴でまねることを思いつき、意思の疎通に成功する。
エリンの観察と工夫による成果。しかしそれは人から見れば、霧の民の秘法を使ったように見えた。しかも王獣はこの国を束ねる真王の力の象徴。その王獣を操れるエリンは、この国の運命に巻き込まれていく……。
前巻の闘蛇編で、エリンは自然を観察するのが好きだ、という性格付けがなされました。
また、それを示す最初のシーンで、蜜蜂の短い毛の生えたおなかの感触が知りたくて触ってみたら刺され、その結果蜂も死に、自分が手を出してしまったために自然の営みを狂わせてしまったことを悲しみます。
エリンの自然に対する態度は、ここで決定されています。自然は自然のままに。人の都合で左右してはいけない。
ここまでなら、子供向けの教育的テーマでいい話だね、なんですが。
そこから先のジレンマを書いているのがすごい。
エリンは生き物を愛していて、王獣も自然のままに育ててあげたいと願います。そして、リランと意思の疎通が図れるようになり、親密になります。
ここでリランが相棒になり、二人で大活躍という話にすれば、子供向けの楽しい話になりますが、そうはなりません。リランが擬人化されないのです。意思の疎通は出来るけれど、人間と王獣はあくまでも別の生き物で、完全には理解しあえません。
しかも一度人間に飼われたリランは、自然には帰れません。
自然保護のジレンマを、重ね合わせて見ることができます。一番の自然保護は、人が触らず、人がいないことです。人の手が入れば、もうそれは「自然」ではない。大切に思えば思うほど、好きであればあるほど、そこに行かない方がいい。
人は自然と相容れないのだろうか。利用し対立するしかないのだろうか。
それに対する示唆が、最後に書かれています。戦場で、命じられてもいないのに、エリンを助けるリラン。
リランはどういう想いで自分を助けてくれたのだろうと、エリンは思います。それは結局分からない。でも、これからも生き物たちと向かい合っていこうと決意するのです。
物語としては当然のように面白くて、手に汗握る展開にはらはらしました。その向こうにこうしたテーマがしっかりあって、筋立てと不可分に結びついている。読み終わった後の深い余韻がありました。
ちなみに僕の一押しのシーンは、「聞こえなかったよ――カシュガンなんて言葉」です(←オチ)
これも青い鳥文庫版で読みましたが、その二巻と三巻には、あとがきに「黒魔女さんが通る!!」の作者石崎洋司さんとの対談が前後編で載っています。
そこで、「リアルに書くこと」について触れているのです。そうなんですよね。異世界だったり非日常の設定だったりする話ほど、リアリティをきちんと作って、そこにキャラクターが生きていると感じさせないと面白くないんですよね。
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