今週の雑感記 ファンタジーが生まれるとき
最近読書週間。
面白い本というのは、思わずその世界に引き込まれ、時間を忘れてしまうもの。
そういう本を作業中に何気に手に取ると、ピンチ(笑)。
○ 火星年代記 (レイ・ブラッドベリ 早川書房)
SF界の稀有なる叙情詩人、レイ・ブラッドベリの代表作の一つ。
火星人との意外なファーストコンタクトから始まって、火星を舞台にした物語が、時代を追って短編の形でつづられていきます。
ちなみに書かれたのが1946年で、もう60年前なので、火星に辿り着く未来が1999年、8年前に設定されています。SFといえば未来のはずなのに、なぜ過去? と僕の脳が一瞬混乱。この違和感を飲み込むのに、ちょっとかかりました(笑)。
僕が子供の頃は、こんな事態は滅多になかったんですが、思えば遠くに来たもんだ、という感じですねえ。アトムも通り過ぎちゃったしなあ。しみじみ。
ブラッドベリさんはくくりはSF作家ですが、多分今の世の中に生まれたら、SF書かずにファンタジー書いてたんじゃないか、という人です。火星が出てきたり未来だったり、SFの舞台を扱っていますが、それに対するこだわりはあまりなくて、書こうとするのは、別の部分。
この作品も主眼は人類の愚かさに対する批判です。強欲だったり狭量だったり。当時のアメリカの世相も反映していると思われます。
それがブラッドベリさん独特のスタイルでつづられていて、凄く哀愁に満ちて、儚い感じの物語になってます。詩人に例えられるだけあって、ちょっと読み慣れない表現があるんですが、その雰囲気に入り込むと、どっぷり浸れます。
「長の年月」が物悲しくて、よかったなあ。けなげロボに弱いよな、オイラ(笑)。
貼り付けようと思ったら、画像がない!
○ 一平くん家~鈴木家の歴史~ (ビッグコミックオリジナル)
「三丁目の夕日」がお休みで、代わりに載っていたコラム。
いつも短い読み切りだし、漫画の雰囲気はほのぼの路線だから、あんまり起伏のある話に見えませんが。
鈴木家の歴史、として、お父さんお母さんの昔から並べてみると、やっぱり戦争があるだけに、かなりドラマチック。
お父さんは南方の激戦地を生き延びて帰ってきてるし、お母さんは許嫁と生き別れているし。
絵柄とギャップがあって、逆にそれがドキッとしますね。
○ ファンタジーが生まれるとき 『魔女の宅急便とわたし』 (角野栄子 岩波書店)
「魔女の宅急便」を四冊読破して。
ここまではまると今度は、作者が何考えながら書いてたんだろう、というのが気になるのが、作り手の性。という事で、この本を買って読んでみました。
この本の中で、非常に心に残った部分。ちょっと長いですが、引用。(改行入れました)
人はよく「お子さんのために書くのですか」「読者を意識して書くのですか」と聞く。
でもよく考えてみると、私は自分のために書いているのだ。ワクワクするような時間を持ちたい、そう思ってずっと一人で書いてきたのだった。
それがたくさんの人に読んでもらえる幸せを得たとたん、ぐじぐじ心配になってしまった。人ってやっかいなものだ。欲張りすぎてる。
もう一度自分のために楽しんで書こう。自分が楽しくなければ、読む人だって楽しくないにちがいない。
そう思えたとき、私はまた書くのが少しずつ楽しくなっていった。やがて書かないではいられなくなった。どう思われるかは気にならなくなった。
自分のために書くなんて、ひとりよがりじゃないの、という言葉もちらりと頭をよぎる。
でも私が見て、感じたことなんだからいい。もしそこから離れてしまったら、きっと穏やかな気持ちではいられないだろう。
(中略)
私はこの気持ちのありようを「いい気持ちライン」と呼ぶことにした。
自分がいい気持ちで書けないものは、作品とは認められない。書き直すのはそんなにいやではなかったから、「いい気持ちライン」にならない作品はなるまでなんども書き直すことにした。
そして少し書くと、声に出して読んだ。繰り返し読んでも、心がしぼんでこないものは合格! このラインは今でもかたくなに守るようにしている。
全ての作品をこう作るべきだとは言わない。実際がっちり企画を立てて、狙った通りに当ててる作品だってあるんだから。
でも、少なくとも、「魔女の宅急便」のような、じわーんとか、ほわーんとか感じさせる作品は、こういう気持ちで書かないと書けないだろうなあ、と思いました。
自分は読者としても、そういう気持ちを感じられる作品の方が好きなタイプで。なので自分の作品作りでも、こういう心構えで、気持ち込めて書きたいです。
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