今週の雑感記 のだめカンタービレ16
漫画にはいろんなジャンルがありますが。
ジャンル分けというのは、設定だったり扱う主題の種類だったり、一番目立つ特徴でくくっているので、漫画の種類を語ろうとする時、万能かと言うとそうでもなくて。
ナベ先生と、どんな漫画が描きたいか、という事を語っている時。
「つまりですね、こないだの無我の大会で、藤波さんの足四の字を西村さんがリバースしたら、がちっと極まっちゃって、それで藤波さんがタップしてしまったようなですね……」
「うんうん」
プロレス漫画が描きたいという話じゃないのです。主題の扱い方をプロレスに例えて。二人の間では、これで漫画の話として成り立つんですけど。
他の人にはこれでは伝わらないのが悩み(笑)。
プロレス好きだったり、合気道も中国拳法も「秘伝があって、かつ乱捕りもないと燃えない」という理由で習う流派選んでたりするんだけど。
どうしてこの感覚が上手く漫画で表現できないんだろう。
○ のだめカンタービレ 16 (二ノ宮 知子 講談社)
一気通読の後、ちょうど上手いタイミングですぐに16巻が発売。
ようやく落ち着いて語れるようになりました(笑)。
この漫画の成功は、まず何と言ってもキャラクター造形によるところが大きい、と思います。
もちろんまずは、主人公ののだめです。
強烈です。
しかし、個人的には、強烈な設定とかエピソードとかよりも、コントラストの作り方が上手いなー、と感心。
例えば千秋。
この漫画のタイトルは「のだめカンタービレ」で、主人公はのだめだという事になってるんだけど、実際には千秋なのではないか、と思ってみたり。
のだめは特に最初の頃、キャラクターが濃すぎてギャグキャラ過ぎて、ストーリーを動かせない。実は視点はずっと千秋が中心。
だから千秋の好感度が低いと、ここまでの成功はなかったと思う。
ここでコントラストの作り方に感心したのです。光が当れば影が出来、そのコントラストが物の立体感を作り出すように、人物像も光と影があって、それの表現次第で厚みが出たりペラペラになったりする。
千秋の設定は、著名ピアニストの息子で金持ちで、物凄い音楽の才能があってルックスもよく、そして性格は「おれさま、千秋さま」。
これは普通、嫌な奴の設定だ(笑)。
ところが実際には、最初にそういう印象を読者に植え付けておいて、別の部分が描かれている。
のだめに強烈なツッコミを入れているけど、実際には振り回されてたりとか。
意外にくよくよ悩む小市民だったりとか。
飛行機が怖くて乗れないので海外留学できない、というお笑いの設定は、その後もっとシリアスだったという事が分かるけど、もう一つの、海で溺れたのがトラウマになって海が怖くてかなづち、というのはそのまま。
かっこ悪い人間味のあるところがちゃんと描かれているので、嫌味にならず、好感度がアップ。
でも最初の設定が吹っ飛んでしまっているわけでは無くて、ちゃんとそういう印象は保っている。
他にもバカキャラとして出て来た峰が、意外に鋭いところ見せたりとか、エロ師匠シュトレーゼマンが、普段どんなにどうしようもなく見えても、こと音楽の事になるとやはり巨匠なのだというのがさりげなく描かれたりとか。
ガツンと最初に強烈にキャラ立てておいて光を当て、その後そっと別の側面を見せて人物像に厚みを出すのが、ほんとに上手い。その厚みが出る瞬間というのが、凄くいいシーン。
という事を思いつつ、最新刊16巻を読んだのですが。
実は15巻まで読んでいて、今一番気になっていたのが、本筋から外れてるんだけど、ロシア娘ターニャの恋。
ターニャも、上記のごとく上手い事コントラスト作られてる、凄いいいキャラで。
最初に出て来た時は、化粧の濃いロシアギャル、金持ちの男捕まえるのに御執心、という強烈なキャラ立て。二度目に出て来た時には千秋にも色目を使い。
ところが三度目、朝食を買いにすっぴんで登場。のだめが気になってた所を見つかった千秋が、とっさにごまかそうと「これっ、やるよ」とパンを差し出すと。
「うれしー…」「ありがとう……チアキ」「うれしいなぁ新しい友達ができて……」「彼氏と別れてから、本当はずっと寂しくって……」あれっ? いい子じゃん?
この後も押しの強いギャルとして動いてるんだけど、こっちが根っこなんじゃないかと思わせる、見事なコントラスト。
そんなターニャが、「暗いし無愛想だし最悪」と思っていた黒木君に恋におちたりとか、そこ突っ込まれてムキになって否定したりとか、料理がおいしいと誉められて嬉しそうだったりとか、もう気になって気になって(笑)。
ほんとキャラクター造形の勝利だと思います。
ターニャどうなるのかなあ。
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コメント
わたしも、ターニャは恋に落ちたと思いました。私だけじゃなかった!!ありがとう!!川瀬さん!!
投稿: ユキ | 2006/10/21 17:14
ムキになって否定した時に、黒木君に「ありえない」と言われて、すれ違いが起きてる所が、また気になるんですよね(笑)。
投稿: ひろし | 2006/10/21 19:31