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2006/08/06

今週の雑感記 11人いる!

ぼちぼちと単行本の作業をしつつ、仕事が詰まっていた時には、手の付けられなかった勉強を。

絵も話も、もっともっと出来るはずなんだ。

三冊描いてる間にだって、だいぶ変わったんだから。

というわけで、月曜日にNHK-BS2でやっていたアニメ「11人いる!」を見て、お勉強。

以下、その雑感記。

○ アニメ「11人いる!」

1986年制作。漫画は持ってるんだけど、アニメ見たことないなと思って、見てみました。見比べると、何か勉強になるかなあ、と思って。

見たことない方に一応あらすじ説明しますと。

時は遠い未来。地球人以外のいろいろな異星人とも出会ってて、そんな種族たちと一緒に学ぶ、教育機関の最高峰、宇宙大学の最終試験が物語の舞台。

最終試験は10人一組で、謎の宇宙船の中で53日間過ごすいうもの。一人でも脱落者が出たら駄目、非常時にギブアップしても駄目。

ところが船についてビックリ。いきなりの非常事態。

10人一組のはずなのに、11人いる!

誰が11人目か分からない。たまたまの間違いか、悪意があってのことかも分からない。下手に非常時宣言して連絡すると、試験はおじゃん。お互い誰かが11人目のはずだと疑いながら、試験は続行。そこに次々と事件が……。

というSFサスペンス。

で、アニメを見た結論を言うと。

ちゃんと最後まで見れるんだけど、漫画に比べちゃうと、いまいち……。

気になったのは。

  1. この作品のヒロイン?(実は未分化の雌雄同体で、本人は当初男になるつもり)のフロルベリチェリ・フロルは、作中で一番感情表現が豊かで、魅力的なキャラクターなんだけど、そこがあまり表現し切れていない。
  2. 事件はちゃんと追ってるんだけど、その合間のみんなが親しくなっていく過程が印象に残らず、最後のハッピーエンド感がそこそこ止まり。

というような感想を持って、どれどれ漫画はどうだったかな、と読み返して、ビックリ。

○ 漫画「11人いる!」

実際のところ、漫画原作が付いていた場合、漫画そのままをアニメでやるのは難しいよなあ、と思うのです。やっぱりテンポ違ったりとかするし。

アニメにはアニメのよさが、漫画には漫画のよさがあるわけで。

漫画ではカラー10ページでさくさく描かれていた冒頭のシーンが、アニメでは緊張感出してがっちり描かれていて、ああ、こういうのはアニメの方が得意だよなあ、と思ったりもしたのですが。

そういう向き不向き以上に、漫画凄い。見比べて思ったけど、凄いよ、この漫画。

物凄い構成力。

漫画が描かれたのは1975年。この頃世はSFブームで、少女漫画でもSF描かれたりしていたのですが。

男の子がSFと言えばメカとかギミックとかに走るのに対して、女の子は情緒的なロマンに心惹かれるようで。

かつ、当時の少女漫画の特徴として、まるでポエムのような、感覚的な表現形式というのがあり、この漫画の著者、萩尾望都先生は、その代表格。

というわけでこの漫画も、非常に感覚的な情緒溢れる詩的表現が、散りばめられているわけですが。

それでいて話の筋としては、本格的なSFサスペンス。謎が謎を呼び、伏線ガッチリ張られている。

これを両立させるために、物凄い重層的な構造になっている。一つ一つの表現、一つ一つのセリフが、ぞっとするぐらい研ぎ澄まされていて、ひとコマが何重もの役割を負っている。

こりゃ凄いですよ。「このコマ、どこか別の場所に動かせるかな?」と思って考えてみても、もうそこ以外に入れようがないもの。

アニメではこういう事がやりづらいので、時間軸通りに一つ一つエピソードが処理されていて、それが前述の2番の物足りなさに繋がってる。

2番のハッピーエンド感としいう事で、具体的に例を挙げて比べてみると。

この漫画は、最後事件が解決して、主人公のタダトス・レーンと、フロルの間に、ホンワカあまあまのラブシーンがあるんですけれども。

好きなんですよねー、この最後のあまあまのラブシーンが(笑)。なんかすっごいハッピーエンドだねって感じがして。

ただ、この作品は本来SFサスペンスで、あんまりそっちにページ割いているわけには行かない。説明しなければいけない設定、進めなければいけない事件が山ほどあるから。

で、じゃあどこで、初対面だったこの二人が、最後ラブラブになるほど仲良くなっているのかと言うと。

説明シーンや事件の合間に、2,3コマずつで、ちらりちらりと挟んである。しかもこれが大筋の邪魔にならないように、非常に巧みに紛れ込ませていて。

最初のうち、送り込まれた、謎の宇宙船の中で。その宇宙船の様子を見せていく途中で、ひとコマずつ、事あるごとにフロルが、自分とタダの背格好を比べているシーンが入っている。

最初は「?」ぐらいのリアクションだったタダが、「きみはなんだよ、さっきから」になり、何日かして最後は「やっぱしオレん星のほうが骨格が小せえのかなー」というフロルに対して、「そうだよ。きみはテラではヘンペイ胸の女性の体型に近い!!」という憎まれ口を叩くまでに。

しかも決定的なのが、その次のコマが凄く小さいコマなんだけど、ぴゅーと逃げるタダと怒って追いかけるフロル、という絵になっている。これで、ああ、なかよしコンビだね、という印象が、読者に植えつけられる。

しかもこの一連のシーンは、その後明らかになるフロルの身の上の伏線になっているのです。

フロルは男だと言い張っているけど、実は未分化の雌雄同体。家の事情で女にならなければならない所、宇宙大学に受かったら、ご褒美で男になってもよいというので、受験している。同じぐらいの背のタダが、自分よりがっちりしていて男らしいのが、凄く気になっていた、というわけ。

なかよしコンビが確定してから、実は雌雄同体なのです、という設定が出てきて。この後それを知ったタダが、「女性になったら素敵な美人になるだろうな」と想像してるシーンを描いたら、打ち上げ成功。これはもう、そっちの軌道に乗ったな、と。

すると多少ページの都合で強引でも、もうOK。

今までずっと、どちらかと言うと活発で、少年のような表情で活躍していたフロル。

それがタダに告白されて「美人になるかどうかわからないぜ?」とか、「オレさ、おまえがそういうなら女になってもいいや」とか、ちょっと頬を赤らめて少女の顔で言ってたりすると、ああ、いいもん見たなあ、という気分になれるわけですよ(笑)。

でもアニメでこれは難しい。動いてるもの。唐突にフロルが変なことしてたら、うざったい。実際それが気になったのか、いくつかに分散しているこのシーンが、一箇所にまとめられていた。

でもそれだと、アニメの場合リアルに時間経過するから、こんな数分で仲良くなるまでには行かないだろう、という感じになってしまう。

それに対して漫画は動かないし音も出ない代わりに、時間と空間を作者の意のままに操ることが出来る。

一連の流れの中でひとコマだけ、ぽんと異質なコマがあっても、処理によってはスムーズに見えるし、コマの外に省略した時間が存在するから、「描いてないけど、きっといつもこんな調子なんだな」という雰囲気を作ることも出来る。

実はいつもは「アニメはいいよなー、動くし音も出るし。それだけで全然、臨場感違ってくるもんなー」とうらやましく思ってたんですが。それが逆に利点になる時があるなんて、これだけ痛烈に感じたのは初めてです。

時間を置かずに見比べて、初めて分かった。いや、ホントに勉強になりました。

と言うよりも。

漫画にそういう利点があるって言ったって、この漫画のこの表現は、萩尾望都先生のテンポの中でしか出来ないよな……。

自分にこんなこと出来るだろうか……。

むしろ自信を失った……?

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