いつの間にか一人歩き
いつの間にか一人歩きする危険性。ノウハウとかが。
ブンブンに子供向けのマンガ教室のコーナーがあって、時折読者からの質問に答えるために、漫画家にリサーチかかったりするのです。ペン先は何使ってるかとか。
自分も子供の時にそういう事が知りたくて仕方なかったから、ちょっと微笑ましい。なんか秘密の一端を掴んだような気が、当時はしたのです。いや今にしてみりゃ、別にたいしたことじゃないんですけどね(笑)。
でもそれが結構表には出ないから、知らない人は全然知らない。で、漫画の描き方には大いなる秘密が(笑)。新人さんの投稿作でも、中にはびっくりな描き方している人がいて……と担当さんと世間話していて、ふと思ったことが。
「漫画の描き方」って、ちょっと一人歩きしている部分があるな、と。
みんな当然のように、漫画は枠とってつけペンで描いて……と思ってるけど、ホントはそれぞれ最初は理由があって。でもその大元を今考えて使ってるかなあ、という疑問。
例えば。漫画はつけペンで描くことになってるけど、これの最初の理由はたぶん印刷事情によるものだと思う。昔の状態の悪い活版印刷できれいに出るようにするためには、鉛筆画じゃ駄目で、黒インクで清書して、コントラストの強い状態にする必然性があったのではないか。
だから印刷事情がよくなって、文房具屋にいろんな筆記用具が並んでる現在、わざわざつけペンで描かなきゃいけないという事はなくなっているはずなのです。
でも未だつけペンで描くのが主流なのは、そこに別の理由が生まれているからで。
先人の漫画家さん達が長い時間をかけて、「つけペンの使い方」を開発したからに他ならない。一本の主線に強弱をつけて、質感を表現する、という手法。タッチやらヌキやら、そういう物。
というわけで、そこまで考えてペンを使いこなさないと、わざわざつけペンで描く意味がないのです。
例えば、顔の輪郭の、どこを厚くとって、どこを薄くする、というのがありますが。あれもちゃんと狙いがあるわけですよ。線の強弱で、ほっぺたの柔らかさが表現できたり。でもそれをまったく考えずに、力の入りやすい角度が太く、入りづらい角度が細くなってるだけの人がいたりして。
そういう人が原稿落としそうになって、下書きコピー状態で載っちゃった時、むしろ上手く見えたりする悲劇があったり。「つけペンで描く」というノウハウだけが一人歩きしている、悪い状態。使いこなすまで頑張るか、自分が一番うまく描けるやり方を探すか、どっちかに行かないと。
はっきり言って、ペン慣れするには結構修練が必要ですから、そういうタッチを求めていないなら、鉛筆で描いた方が上手く描けます。今ならそれをパソコンに取り込んで、簡単にコントラストは調整できるわけで。そのまま仕上げて、データ入稿しちゃう手だって、考えられる。
実際、つけペンじゃなくて、ピグマのようなマーカーで描いてる人だっているし。漫画→つけペン、というのは、思ってるほど繋がってないのです。
と、ここではペンについての例を挙げましたが、絵の描き方だけじゃなくて、漫画全体いろんな所で、こういう事例は見つけられるよなあ、とちょっと怖くなったのです。
知らず知らずに自分も陥ってるかもしれないし。くわばら、くわばら。
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コメント
こんにちは。
はーい(←挙手)、私の漫画、サインペンで描いてます。スデッドラーのミリペンの、太さの違うペンを何種類か使い分けて。
さすがに効果線はつけペンなんですが、人物と背景はほとんど全てミリペンです。
太さの変わらないペンで画面にメリハリを出す事は、かなり苦労というか、慣れが必要だなと思いました。2年やってようやく慣れてきたというか。
ああいう絵にしたのは事情が有っての事で、元は自分もつけペンの人間、最初はミリペンでストーリー漫画を描く事に抵抗もありましたが、結果的にはそれまでやった事の無かった手法を手に出来た感じがあって良かったなあと、今では嬉しく思ってるんですよ。
先月から新しいアシさんが入ったのですが、このミリペン作画は、どこの線でどの太さを選ぶか?の感覚が結構難しいようです。
投稿: ひろき | 2005/10/27 11:14
きむら先生、いらっしゃいませー。
僕の場合、昔、ミリペンで落書きしていて、ラフなタッチでいい感じに描けた瞬間があり、このままこれで行くか? と考えましたが。
万が一これで仕事になった時、タッチが特殊すぎると背景を手伝ってもらえないことに気付いて、即座に諦めました(笑)。
現在は、「なんかここ白すぎるけど、あと何時間かで締め切りだし、どうしよう!?」という時の、一発描きの背景を描く道具として活躍しています。
なんか僕は、ミリペンの方が強く握りこんでしまうようで、長く使ってると手が痛くなってくるんですが、きむら先生はどうですか?
投稿: ひろし | 2005/10/27 17:00
>手が痛く
あ、私もつけペンより、ミリペンの方が手が痛くなりやすいです。
つけペンの軸は柔らかいホルダーがついているし、線の強弱で力の入り抜きがありますが、ミリペンだとずっと一定の圧力をかけ続けてるからかな~…とか思いますが。
長く描いてるとペンだこが腫れて痛いので、スポンジのグリップを買って、無理矢理ペンにはめて描いたりしてます。あ、面倒になって指の方にグリップをはめる事も(笑)
投稿: ひろき | 2005/10/28 10:45