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2005/07/09

重力ポテンシャルに関する諸問題

物理学科だったので、アカデミックなタイトル付けてみました。でも漫画の話なんですけど(笑)。水は低きに流れ人は易きに流れる、という話。

漫画もビジネスなので、人気を取らないと駄目なのです。お客さんを集めないと商売成り立たない。そこで、アンケートとったり、売れ筋研究したり、何とか売ろうと努力するわけです。

で、まあ、データが集まってくると、「売れ易い傾向」というものも見えてくる。今日日、業界人じゃない人でも、ちょいと漫画に詳しければ、大体この辺だ、というのは分かってると思うんだけど。

ところが、読者と言っても一人の人間のクローンがたくさんいるわけじゃなくて、その好みも十人十色千差万別なわけで。

漫画に限らず、「○○がいいよ」「えー、あれがー?」というように、どうにも話がかみ合わない、というのは誰もが経験してると思うんですが。嗜好品に好みがあるのは当然で、甘党の人がいれば辛党の人もいる。スローバラードが好きな人もいれば、アップビートなものが好きな人もいる。

前述の「売れ易い傾向」というものは、好みの多数決なんですね。だから数字だけ追っていると、人の顔が見えなくなっちゃう。一番の売れ筋だけ作っていればみんな満足かというと、そうでもない。

しかも読者の財布の中身だって限界があるんだから、売れ筋をどーっとみんなで作ると、その中身を大勢で奪い合うことになる。売れ筋のはずなのに、意外に儲からない。

以上の二点は、特に変な話じゃなくて、了解してもらえると思うのですが。むしろ偉そうに書くほどの内容じゃないと言うか。

ところが実際行動に移すと違ってくる。ここからがタイトルの「重力ポテンシャルの問題」。

人が何かを判断する時には、数字や過去の経験など、何かしらの根拠を元に判断します。これは意識的にじゃなく、無意識の領域でも起こる。

だから漫画について考えれば考えるほど、「売れ易い傾向」に沿ったものになって行く。さらにこれが会議とかになって、大勢の多数決や合議制になっていくと、ますます顕著に。引力によって星の中心に向かって落ちていくように、「漫画界の中心」に引っ張られる。水が流れるがごとく、意見がそっちに流れていく。

しかも、まさに引力と同様、その存在が意識されることはあまりない。自然とそうなる。パクるつもりじゃなくても、気が付くと、似た設定、似た展開の物が増えてくわけで。

でも自分としては、そこに行きたくないわけですよ。あまりに競争相手がたくさんいて、過酷な技術力の勝負になる。「ラーメン激戦区に出店!」みたいな感じ。出来ればライバル店と競合しない所がいい。

もし、自分の個性を生かして、内容を差別化できれば。前述のように人の好みは千差万別なんだから、多少人口密度は薄くても、お客さんはいるはずだ。無人の荒野に出店、というような、そこまで物凄い変なもん、描くつもりじゃないんだし。

ところが実際これを編集さんに訴えても、その場では「うんうん」と聞いてくれるんですが、結局はかなわないのです。

具体的に言うとですね。SF漫画を描いていて、実際こういう事を訴えて、切り口を変えようとしたけど、駄目だった。編集さんの意見を聞いてると、ある一点に向かってる。「甲殻機動隊」とか「銃夢」とか。

確かにSFで、ああいう風に描ければ、確実に売れる。でも描けないから(笑)、確実に売れない。絶対埋もれる。

それをまた訴えて、でもやっぱりこうした方が、と言われて、堂々巡り。新人が、普通と違う風に描いた時点で、売れる確信がなくなる。実績があれば安心だけど、その実績を積むには、どこかで描くしかなくて……と、卵が先か鶏が先か。

これは連載取った今でも続いているのです。何とかして、重力を振り切らなくては。

補助ロケットブースターみたいな物は、ないのだろうか?

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