ハーメルンのバイオリン弾き 36
ハーメル回顧録の36。前回まではカテゴリー、ハーメル回顧録でどうぞ。
前巻から始まっています、ハーメルvsケストラー。同時にトロンvsギータも。物語のクライマックスで、全面対決になった時、各所で起きている対決を同時進行的に見せる構成は、他の作品にもよく見られる手法ですが、これ諸刃の剣なんですよね。
盛り上がったところでカメラが切り替わっちゃうと、せっかくの読者のテンションが切れやすいし、戻ってきた時に、前どこまで進んでいたか思い出すのに時間がかかったりして、入りづらいし。作者が思っているほど効果的じゃないケースというのが起きやすい。ではなぜ、わざわざそうなっているかと言うと。
このふたつのエピソードは、実はテーマとしては同じです。魔族対人間。人間のほうが圧倒的に不利で、魔族の側から言わせれば、人間なんて、魔族に利用されて殺される、餌に過ぎない存在。そんな存在、虫けら同然。
それに対して、人間であること。肉体的には弱々しい存在かもしれないけれど、他人を思う心を持つ事で、肉体を超越して強くなれる。自分は犠牲になるかもしれなくても、その思いが人に伝わり、大きな力を生み出すことが出来る。
同時進行で起きている二つの話は、形を変えて同じテーマを追っている。だから一つを片付けて次、という描き方をすると、同じ話の繰り返しになってしまう。そこで同時進行、ハーメルがピンチの回はトロンもピンチで、逆転するのも同じ回。
このテーマは前回でも書いたとおり、ナベ先生の信念、人間賛歌です。結局長い連載を通して、一番書きたかった事がこれなのです。自分のために頑張るのは当然のこと。誰かのために頑張れるのが尊いのだ、と。
トロンは「誰かのために剣を振れるようになれ」との父の教えを理解して、それを実践した影の主人公。少年漫画を成長物語と定義すれば、まさに主人公的活躍です。ちっちゃくて泣き虫だったトロンが、いつの間にか大勢の人を助けて、慕われる存在に。
さて、トロンの方はこの巻で完全決着となりましたが、片やハーメル。
わが身を犠牲にしてでもケストラーを倒すと、あえて魔族の血にその身を染め、ケストラーを打ち砕く一撃を放ったかに見えたのですが。そこは敵も最後の大物、ラスボスです。
次巻とうとう最終巻、更なる悲劇が一行を襲い、そして最後に……。
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