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2004/09/29

可塑性のプリンセス

漫画で交遊録第6弾。「プリンセス・プラスティック」(2001/11~。米田淳一著。早川書房。)

すでに漫画じゃないし(笑)! でもこの作品は僕の漫画人生において、かなり重要な位置を占めてます。すっごい考えさせられたから。

ある日のことでした。前作「SKY GUNNER」がアンケート的にかなりずっこけてしまったので、さーてどうすべえか、と考えていたときのこと。正直、この雑誌じゃもうチャンスないかなあ、よそにも当たってみようかと考えてて。そんな時、企画物をやってみないかとお誘いがあったのでした。

それが2002年の秋のこと。そこから一年半四苦八苦することになります。

まあ、もともと小説を漫画にするのは難しいのです。ボリュームが違うから。小説はいろいろ盛り込んでも一冊にまとまりますが、漫画はあんまり寄り道しているとすごい超大作になってしまう。ここは使う、ここは削るということをしないといけない。でも一番苦労したのはそこじゃなくて。

自分も下積み長いですが、その原因のひとつがここなんだという部分。それををこの作品で学びました。

要するにマイナーなんですよ。SFだから当然だろと言うわけではなくて。漫画のジャンルがマイナーなんじゃなくて、描き方が。

漫画の面白さの要素って大きく分けたら二つだと思う。好奇心と感情移入。だから、意外なことが起きて先が読めない展開で引っ張る方法と、キャラに共感させて感動路線で引っ張る方法とあるわけで。これはどっちがいいという話じゃなくて、読者によってどっちのほうが好きかという問題。ところがこれと漫画のジャンルの相性があるわけですよ。

感情移入させたいなら、読者が共感しやすい条件を揃えてやらなきゃいけない。当然読者も似たシチュエーションを体験しているほうが感情移入しやすい。少女漫画のラブストーリーなんかそうですね。クラスに好きな子がいて、という話。誰でも一度は経験する。

でもSFはねー。誰も体験したことないものを描きますからねー。感情移入がメインになるより、意外な展開で引っ張るほうがスタンダードなわけですよ。SF漫画読む人も衝撃の展開とか、インパクトのある決めゴマとかを求めている人が多い。

感情移入で漫画を読みたい人にとってはSFはとっつきにくく、SF漫画が好きな人にとっては僕の描き方が入りづらい。読者の少ないとこに行っちゃってるな、と。しかも技術的に絵のテンションで引っ張れるわけでもなし。

多分その弱点を分かってて、編集さんはこの企画をまわしてくれたんだと思う。近未来の日本、最新鋭の戦略兵器として作られたバイオロイドの少女。地球を滅ぼすほどの力を持ち、しかも美人で双子と来た。これで地味なもん描くはずないだろうと。

でも、そこでテーマを見つけて地道なドラマにするのが真骨頂(?)。設定の裏に隠れた米田さんの描きたいテーマを見つけてそこを膨らます。米田さんとは話が盛り上がってるわけですよ。「鉄腕アトムとか、サイボーグ009とかにもあるやつですよね。人間じゃないけど人間になりたくて。自分がすごい力を持ってるけど心優しいからそれに対しての苦悩があって。自分の存在に対するジレンマとか。」「そうそう、それですよ!」と。

担当さんはきっと、「ガンスリンガー・ガール」とかあの辺狙ってたはずなのに、まったく違うものが。で、最終的には僕としては狙い通りのものが描けたけど、担当さんはこれじゃ採用できませんという話に。

で、僕はそこで勉強。そうか、技術の問題だけじゃなくて、描き方にも問題があるのか、と。じゃあ、もっと身近な題材を使えば感情移入させやすいよな、サッカーとか。で今に至る。

あんなに苦労して、一年半ももがいて結局ボツだったのに、サッカー描いたらあっという間に採用決まりましたからね。その後でまたいろいろあったけど。

でもね。それでも思っているのです。その方がスタンダードだからといっても、みんながみんな、それを求めているわけではないはずだ。SF漫画で感動したっていいだろう。困難だと言うのなら、だからこそ挑戦のしがいがあるじゃないか。

いつかもっともっと上手くなって、読んだら感動で鳥肌立つような、そんなSF漫画を描いてやる。こっそりリベンジ狙っているのです。いつかは。必ず。

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