カクヨムのランキングでAI小説が一位を取ったという話題が流れてきました。
とうとう来たか。
いや、とうとうじゃないな。思ったより早いな。
AIについての僕の感想は、以前からここで書いています。個人的な視点からすると、あんまり関係ないな、というもの。
ただこの「あんまり関係ないな」は、とてもややこしい話なのです。
まずですね。AI小説が脅威ではないと侮っているわけではありません。上に書いたようにAI小説が大量に作られる可能性はあるなと思っていましたし、それにランキングが攻略されても別に意外ではないのです。
あまり関係ないと思ったのは、そもそも僕がそっちに行けないと感じているからなのですよ。僕はずっと創作の畑で苦労してきましたが、漫画家の頃、そして小説家になってからも、まったく解決されていない問題が一つあります。それは僕の物差しが変な方向を向いているということです。別の言い方をすれば、好みがマイナーということですね。
例えばこういうことがありました。担当さんと打ち合わせして企画を作ろうとしている時、向こうからこんなのはどうですかという提案がありました。でまあ、それに応えてプロットを出す辺りまではいいんですよ。ネームにし始めたところからOKが出なくなる。担当さんがため息混じりに「かわせさんのネームは読めるんですけどね……」とつぶやいたことがあります。
要は、この企画のこういうところが行けるだろうと思って提案したのに、なぜか返ってきたネームにはそこじゃないところが強調されて描かれている、という状態なんですね。
そして恐ろしいのは、僕もわかってるということです。提案された時点で「ああ、こういうのを描いてほしいんだな」という狙い所はわかっている。「じゃあ、ちょっくら描いてみるか」という軽い感じで始める。ただ、そういう状態で描かれたものは、自分で読み返すと熱が足りなくて面白くないなと思うので、ちょっと心を入れ替えて真面目に一生懸命描く。
するとですね。面白さの物差しが世間平均と大きくずれているのか、ここをクローズアップするのが一番面白いはずだと思って描いた場面が担当さんには響かず、上記のような評価を受けてしまうのです。
ちなみに漫画だけではなく、小説でもそれは起きています。さらに怖かったのは、一度絵柄的にちょっといじれば絵本も描けるんじゃないのかなと思って挑戦して、持ち込んでみた時。先方は僕が一番描きたいと力を入れたページを「このくだりはいらないですよね」と言って一番最初に外したんですよ。 何やっても同じことが起きるのかと思って、ぞっとしました。
結局そういうふうになってしまうと、残ったものは僕にとっては「わざわざつまらなくしたもの」なので、モチベーションがなくなってしまうのです。
それに対してAIです。AIはアーティフィシャル・インテリジェンスの略。日本語訳は人工知能です。
この「知能」という言葉に引っ張られて、実際に物を考えてるかのようなイメージになっていますが、以前科学雑誌で読んだ文章生成AIの仕組みを一番簡単に言い表すと、統計マシン。大量に学習したデータから、この単語の次には何が来るのか、そういう予測をしてつなげていくと、それっぽい文章になるという仕組みなのだそうです。それで複雑な文章を吐き出すのはすごい。
さて、この統計マシンという本質と、ランキングハックは相性いいだろうなあと思います。考え方的に同じだから。つまり今まで手動でハックしていたものが全自動になったということですね。そうすると、僕の予想は次があって。こちらのブログ。
やはり自分もAI小説で小銭稼いでいますよ、という方の匿名ブログ。この人が僕が予想していた通りの人なのです。別に小説が趣味というわけではなく、簡単に儲けられそうだからやっている。そしてご本人も危惧しているのですが、他のAI小説と比較すると、かなり中身が被っている。
AIは知能というよりは統計マシン。すると、当然売れてるものから共通の要素を抽出した同じ答えが出るはず。これはもともと商業出版でもあったことで、それで二番煎じの作品が作られてきたのですが。
違うのは人間の作家がいると、書きたいものがあるのでそれに反発して、もしくは反発しなくても個性が乗っかって、違うものができてくること。それがプラスに作用すると、非常に個性的な大ヒット作品が生まれ、マイナスに作用すると、僕のように企画段階で行き詰まってしまう。
そういう諸刃の剣なので、わざわざ創作のモチベーションがない場合、そんなリスクは冒さない。出たものをそのまま出す。それが一番確実だから。そう考えてた、その通りの事例です。
そしてAIなのでものすごいスピードで執筆できて大量生産が可能。つまり、よりひどいレッドオーシャンが発生するのではないか、ということが予想されます。
僕はそもそもそっちに行きたくてもいけない体質。そういう意味での「あまり関係ないな」だったのですが。そういう事態になった時。
少しずれている面白どころを書いていて、それが好きな人と出会うのが人口密度的な問題で難しいという困難を抱えているのに、そこに大量の作品が供給されることにより、より埋もれて大変になる可能性。元々潜在読者にアプローチする効果的な手段をまだ確立できていないのに、やること自体は変わらずとも困難さがますという形。これは困る。さてどうすればいいのでしょうかねえ。
プラットフォーム側も多様な読者を引きつける努力をしないと、場が廃れてしまうんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろか。
そしてそして、どうすればいいのかなと考えながら、それをもネタにしてしまうのが作家の性です。そんなAIに作家が翻弄される未来を書いたSFショートショートがこちら。
最後に宣伝して本日はお終い。
最近のコメント